column 2024.2.27
 
【シリーズ】郊外くらしラボ

住宅地づくりでの、定期借地の可能性 (前編)

小谷実知世(doma)
 

土地を買わずに、借りて家を建てるのに使える、定期借地という仕組み。そこには土地を買う場合に必要な初期費用が抑えられるというメリットだけでなく、風景や人のつながりの魅力を生み出す可能性が秘められていました。

仲の良い家族かと思いきや、お向かいさんどうしでした。左はお話を聞いた相羽建設のお二人

東京R不動産では「住宅地づくりから始める地域づくり」をテーマに、これからの時代の豊かな暮らしづくりの方法を考えたり、取り組みを始めたりしています。

建築家や工務店が、地域づくりを事業にする方法、考えました

中でも注目している、定期借地という仕組み。事例からその可能性を学ぶため、いつも多摩地域でいっしょに活動をしている相羽建設が手がけた住宅地「ソーラータウン多摩湖町」を取材し、話を聞きました。

思い入れのある土地を、定期借地で活用する

――「ソーラータウン多摩湖町」をつくることになったきっかけを教えてください

農業を営む地主さんから土地についてご相談があったのがきっかけでした。

そこは以前、母屋があった思い入れがある土地で、手放さずに残したい気持ちもある。けれど、税金の関係でそのままにしておくわけにもいかない。賃貸アパートなどを建てようか売却しようか、迷っているとのことでした。

しかし土地を受け継ぐ予定の息子さんは一般企業にお勤めで、アパートを残されても困ると考えていた。そこで提案したのが定期借地型分譲(以下、定借)にすることでした。

家の境界を越えて庭が続くような風景

資産の持ち方として、賃貸アパートにした場合は空室が出るリスクがついて回ります。一方、定借は空きが出ることが、ほぼないでしょう。収益性はそれほど高くはありませんが、安定した収入が見込める上、50年後には更地にして返還される契約なら、次の世代にも迷惑をかけることはないと考えてくださったのです。

また息子さんにとって決定打となったのは、相続の際にこの土地をそのまま物納できることでした。つまり相続税の支払いが発生し、土地も計算に入れる必要が生じた場合、土地を一度現金化しなくてもそのまま収められるということです。このように、いろいろな観点から比較検討して、定借にすると決めてくださいました。

定借の良さは境界線にあらわれる

――どのように進めていかれたのですか?

「ソーラータウン多摩湖町」を設計するにあたっては、社外の建築家にも入ってもらい、物件のデザイン、ランドスケープ、資金面でのスキームを検討していきました。

同時に、購入希望者に定借について知ってもらうための「勉強会」を開催。モデルルームもつくりましたが、実際にはモデルルームが建つ前に完売となりました。

設計する上で定借らしい特徴が出るよう検討を重ねたのが、共用部や境界の考え方です。土地を所有する場合、境界線を明確にしなくてはトラブルのもとになります。しかし定借の場合、地主さんの土地を借りているという共通理解のせいか、昔の長屋のように、空間をみんなでつくっていこう、共有していこうという空気が生まれやすいようです。

日本人は古くから、縁(ふち)や際(きわ)など、何かと何かをつなぐ場所に価値を見出してきたんですよね。例えば、家の中と外をつなぐ縁側が良い例で、客人がふらりと訪れやすく、住人にとって憩いの場所でした。

そういう意味で、本来、境界線はコミュニティの価値が一番出るところだと思っています。今回は、塀や垣根などはつくらず、共用部をゆったりと設け、道路と住宅をつなぐ庭のデッキや植栽などを大切にして、定借の良さが最大限に現れるよう設計しています。

相羽建設の代表、相羽健太郎さん(左)と、「ソーラータウン多摩湖町」を担当した遠藤 誠さん(右)

最初の3年ほどは納涼会など、住人の皆さんが集まれるイベントなども企画しました。今ではそれらが恒例になり、僕たちなしで続いているのはとてもうれしいですね。

さらにお隣さんどうしが、庭と庭の境界部分に共有のピザ窯をつくって楽しんでいるというお話を聞いたときは、さすがに僕たちも驚きました。もし庭にブロック塀を立てていたら生まれなかった豊かさです。

こうした例は、この物件だけ特別かというとそうではなく、手掛けてきた定借では少なからず同じような空気が生まれています。住んでしまえば、ここは定借か分譲かと意識する機会はほとんどないでしょう。でもどこか住む人どうし「お互いさま」という空気があって、コミュニティとして成熟していると感じることが多いです。

後編では、工務店と住み手との関係から、地域のこと、まちの魅力づくりまで、定借の可能性をさらに掘り下げます。

後編はこちら
住宅地づくりでの、定期借地の可能性 (後編)

(写真:阿部 健

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