column 2021.10.15
 
【シリーズ】郊外くらしラボ

自由に働こう! けやき出版の“まんなか”の働き方(後編)

兵藤育子(ライター)
 

やりたいことをやれる環境が多摩エリアにはありそう。でもその実現には課題や壁も……。けやき出版の小崎奈央子さんと木村志津子さんに聞く、多摩の暮らしと働き方の可能性。後編は仕事環境の現実と課題から、「複業」と多様性へ。

課題は企業と働き手のマッチング

森田:多摩全般の仕事環境や課題について教えてください。

小崎:多摩の会社は9割が中小企業で、製造業や研究所などBtoBが多いんです。なので働く側からすると、どんな会社なのか事業内容が見えづらいんです。一方、企業が人を雇うには常時仕事がなくてはいけないわけですが、中小企業なので人件費を確保するのが難しく、一過性の仕事で手が足りなくなるという声をよく聞きます。ですから、社員でもなく個人事業主でもない、“まんなか”の働き方を企業側がもっと積極的に採用すればいいと思うのですが、まだまだ柔軟性に欠けているのが課題といえます。コロナ禍で自宅にいる人も多いので、そういう人たちを積極的に企業が採用すればいいし、働く側も自分の家の近くにどんな企業があるのかをそもそも知らないので、知る機会をつくるのが一番の近道かなとは思っています。

山岸:それこそ、ここ「BALL.HUB」(多摩エリアの交流拠点として、けやき出版が2021年3月にJR立川駅直結の商業施設「グランデュオ立川」にオープン)がそういったことを広げたり、マッチングする場所になる気がします。

小崎:それはやってみたいですね! 多摩に住んでいて転職を考える人が、まずどこに行くかというと、市役所に相談に行くらしいんです。特に30、40代のお父さん世代で、コロナ以前は都心に毎日通勤していたけれども、テレワークをするようになった人たちです。子どもと過ごす時間が多くなって暮らしを見直し、地元で働きたいと思うものの、どういう企業があるのか知らないし、23区内と同等の待遇を期待できる企業はやっぱり少ない。副業を認めている企業も少ないので、一家の大黒柱が転職しようとするとミスマッチが起きるんですよね。ほかにも子育て中の女性が多摩には多いので、そういった方たちの働きたい意欲もかなり感じます。

山岸:そこはむしろ企業側にとって、チャンスといえますよね。

屋台や什器は、多摩の工務店 相羽建設が制作したもの

「BALL.HUB」には、けやき出版の本や雑誌だけでなく、多摩地域からセレクトされた商品などが集まっている。「BALL.COMPANY」の編集室でもある

小崎:コロナ禍で、体制を柔軟に変えられない企業が淘汰される一方、従来のやり方にこだわらず、いろんな方法を模索している企業は業績が伸びて、二極化している印象はあります。もっといえば、やりたい仕事が見つからなければ自分で作ってしまえばいい、とも思うんです。企業に就職することが必ずしも安定にはつながらない今の世の中は、逆に何でもできるタイミングでもありますよね。起業するのが正解かはわからないし、必ずしも法人化する必要もないと思うのですが、自分で仕事を作って、やりたいことをやった者勝ちだったりもするので。その点、多摩は知り合いの知り合いみたいにつながっていくネットワークがすごいんです。だから一緒に新しいことをする仲間を増やした方が、自分にマッチした会社を探すよりも現実的な気がします。

森田:自分たちで新しいことを始める人にとって、最初の一歩は勇気がいると思うので、ネットワークが充実しているのは大きなポイントですよね。BALL.COMPANYのように、何かやりたいと思っている人が集まっていて、つながりやすい仕組みがあるのも効果的だと思います。

小崎:コミュニティ自体はすでにいっぱいあるんですけど、サークルの域を出ていないというか、プロジェクトを始めても収益性を保てず、空中分解してしまうようなことも本当に多いんです。そういうゆるさとほどよさは、多摩のよさでもあり、悪さでもあるんですけどね。とはいえ私はBALL.COMPANYを食べていけるチームにしたいので、ある程度覚悟を持ってやることが大事だと思っています。社員だったら仕事を教える義務もあるし、育てる必要もあるんですけど、チームは自由なので私がいちいちお尻を叩いたり、お伺いをたてるようなことはしません。だけど、やる気のある人とは一生懸命向き合って、こちらが持っているものは全部お渡ししますよっていうスタンスですね。

「副業」ではなく「複業」できる環境に

山岸:BALL.COMPANYのそういった成り立ちを公開して、いろんな企業が真似できるようにしたり、あるいは人材のハブ的な存在になれる気がします。

小崎:いいアイデアですね。“まんなか”の働き方に関しても、副業という言い方をすると比較的理解してもらえるんですけど、私たちがイメージしているのはサブという意味の「副業」ではなく、仕事を重ねるという意味の「複業」なんです。なのでメインになる仕事は、そのときどきで変わるかもしれない。そもそも自分が好きな仕事と向いている仕事は違うと思うし、やってみなければわからないことも多いので、どっちがメインでどっちがサブか考えるより、経験を大事にしてほしいんです。もっといえば、成功よりも失敗をしてほしい。一度失敗したら、同じことを繰り返さないように学ぶことができるので。だからまずは、いろんなことを体験できる機会を増やして、できることとそうでないことを自分で決めつけないで済むような環境をつくりたいですね。

山岸:そういった働き方の多様性が生まれる素地があるのが多摩の魅力だし、それが実現できると暮らしがもっと魅力的になる気がします。

小崎:大人のキッザニアじゃないですけど、職業体験的なことができるといいですよね。お試し移住をするとき、試しに住んでみるのと一緒に、試しに働いてみることもできたらいいと思いませんか。

山岸:たしかに今は試しに働いてみることができるのは、大学のインターンくらいですもんね。

小崎:会社にとっても働く側にとっても、働いてみて合わなかったときのダメージって結構なものじゃないですか。もっと気軽に職業体験ができるような仕組みがほしいですよね。これについてはぜひ、次の『BALL.』でも探っていきたいです。

情報誌『BALL.』(ボール)
「はずむように働こう!」というキャッチフレーズのもと、多摩エリアで魅力的に働く人たちを紹介。年2回発行で、次号の『BALL.4』にはR不動産も登場します。ぜひ書店で手に取ってみてください。

BALL.
BALL. WEB MAGAZINE

前編はこちら
自由に働こう! けやき出版の“まんなか”の働き方(前編)

(写真:丹下恵実

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