column 2024.7.2
 
【シリーズ】郊外くらしラボ

簗田寺トークセッションVol.0 齋藤紘良さん(前編)

小谷実知世(doma)
 

いよいよ始まる、町田市の簗田寺に隣接した土地での住宅地づくり。ここを皮切りに、お寺を中心としたエリアでの活動を進めるにあたって、パートナーともいえる副住職の齋藤紘良さんと、お寺やまちのこと、改めて話しました。

町田市の忠生にある簗田寺の副住職であり、「しぜんの国保育園」を運営する東香会の理事で、ミュージシャンという多彩な顔を持つ齋藤紘良さん。

簗田寺とその周辺地域に魅力を感じ、東京R不動産ではお寺の森に隣接する土地での住宅地づくりの計画を進めてきました。その募集を間近に控えた今、改めて紘良さんが考えるまちや地域のこと、お寺の役割などについて話しました。

お寺を地域に開いていくきっかけ「YATO」

R不動産:簗田寺の大きな特徴であり魅力として、宗教の枠を超えて、広く地域やいろいろな人に開かれていることがあると思うんです。その一つ、YATOプロジェクトも「500年のcommonを考える」というテーマを掲げていますね。

紘良さん:YATOは、子どもたちが保育園を卒園した後に関する課題感から生まれました。当時、しぜんの国保育園は子どもたちが自分の世界観を存分に発揮できる場所として、確立してきたと感じていました。でも小学校に行くと、これまで「面白いね」と言われていたものも、「それは後でね」って言われるようになってしまう。そのことに対し、何かできないかという思いがあったんです。そこで子どもたちが放課後、小学校とは違う場所に、さまざまな関係性を築ける空間をつくろうと考えました。その場所としてあがったのが簗田寺です。

R不動産:どんな活動をしていたんですか?

紘良さん:最初は、小学生を対象に外部の人にワークショップをしてもらおうと思いましたが、それだと自走できず行き詰まってしまう可能性がある。そこで地元の年配の方たちから小学生が知識や技術を学べる道をつくろう、という話になりました。そこから昔話の聞き書きや、映像監督の波田野州平さんに外部から見た面白いものをリサーチしてもらう活動が始まったんです。そのアウトプットの場として、年一度のお祭り「YATOの縁日」を開き、活動の発表をすることになりました。2016年頃のことです。

R不動産:YATOがお寺を地域に開いていくきっかけになったんですね。

「思いやりのある人が集まる場所」をコンセプトに

R不動産:YATOプロジェクトのゴールは考えているんですか?

紘良さん:明確には決めていないですが、「思いやりのある人たちが集まる場所にする」っていうシンプルなコンセプトがあります。“思いやり”って、すごく漠然とした言い方なんですけど……。今は人との出会いの機会が減っているのもあって、人のことを思って一つ行動することの難しさが、増しているような気がするんです。そんな中、あえて簗田寺やYATOでは、もう一回立ち戻ろうと。「今この人はどういうことを考えているんだろう」とか、「何か嫌なことあったかな」とか、そういう一歩踏み込んだ思いやりみたいなのを持っている、そういう人だけがこの場所に入れる、という言い方をすると、柔らかさの中にピリッとしたお寺の厳格さを感じてもらえるのかなと考えているんです。

R不動産:いつも紘良さんたちは、たくさんの人が集まる場で、「挨拶をきちんとしましょう」ってはっきりと言っていて、とてもいいなぁと思います。どこか背筋の伸びる感じがあって、それがこの場所の居心地の良さにつながっているのかなと感じました。

紘良さん:僕が思っているのは、簗田寺と別の経済活動での常識を持ってきて展開するような人がいたら、そうではないと、ピリッとするための線引きをしたいということ。それを言語化するのはなかなか難しいので、まずこっちを向いてねっていう意味を込めて「挨拶しましょう」と言っているんです。自分がいつも接している倫理とは別の倫理が働くところに入ってくる、その緊張感がピリッという感覚につながるのかもしれません。

R不動産:いきなり言語でルールをつくるのではなく、それぞれがこの場所での過ごし方やあり方を考えて、みんなの間でそれが形になっていくのを待つような、場のデザインの考え方は、紘良さんの保育への考え方にも共通してますか?

紘良さん:そうなんです。例えば、秋になるとお寺の柿がたくさん実をつけます。その実を取っていると住職が、「上の3つは残しときな。鳥が食べるから」って。鳥の世界と僕らの世界、いくつもの世界があるっていうことに気付かされる。そういうことは保育園の中にもあって。一人ひとりを対象として相対的に見過ぎてしまうと、同じ世界の中で、同じ言語、同じ感覚で生きていると勘違いしてしまう。それがハマる子にはいいけど、ハマらない子にも、その子なりの世界、時間軸といったものが必ずある。それは僕らとは違うし、お互いに違うのだから、“間”をどうやって見つけていくか、ということを丹念にやっています。そのことと、ルールを言語化しないで場を育てていくことは、近いかもしれないですね。

思いやりがあれば「地球の裏側から」でもいい

R不動産:地域コミュニティで共通の場所(コモンズ)や、顔の見える関係があるのっていいよね、という考え方があるけれど、簗田寺の場合にはそういう一般的なイメージとはちょっと違いそうですよね? このぐらいの地域(範囲)の人にとって簗田寺がコモンズになるといい、みたいな感覚はありますか?

紘良さん:どうなんだろう。すごく境界がはっきりとした地域のイメージはあまりないです。むしろ自分たちがつながっている人や、意思のつながりというような意味での“まち”が広がっているという感じですかね。

R不動産:一般的な“まち”に代わるものとして、思いやりというものがあると。

紘良さん:思いやりって、言葉にすると何か恥ずかしいし、新しい言葉ではないけど、考えれば考えるほど、パワーがあるんですよね。思いをやる、「思いを向けていく」というか。

R不動産:僕らはまちのことを仕事にしているけど、そういう視点から、紘良さんは独自の感覚とやり方で「まちを真っ当な世界にする」みたいなことを意識してるのかと思っていたんです。今日も「場所の意味」とか「この場所で暮らす意味」みたいなことを話すかと思っていた。でも全然違っていました。

紘良さん:そうか。今聞いていて、僕は地域やまちにあまりこだわってないって気づきました。じゃあ何にこだわっているのかというと、人間かもしれない。近しい人たちの中に思いやりというものがあって、その人は別に地球の裏側にいても、都心にいてもよくて。その思いやりを展開できる集合地点として簗田寺があるといい。だから“まちづくり”にそこまで関心はなくて。集合地としての場所があれば、自然的にまちができてくる、というような世界観かもしれないです。

R不動産:「まちとは何か」という議論の最先端が、今見出されていますね。

後編はこちら
簗田寺トークセッションVol.0 齋藤紘良さん(後編)

簗田寺でのこれまでの活動などはこちらから
9/23イベント お寺の森と文化に浸る暮らし、つくります!
1/29トーク「753villageに学ぶ、暮らしの場のつくり方」
4/8トーク&まち歩き「まちとみどりとつながる家づくり」

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(写真:品田裕美

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