column 2023.8.10
 
【シリーズ】郊外くらしラボ

人や活動が集まる小さなまち 753villageとは?(後編)

千葉敬介(東京R不動産)
 

普通の住宅街のようなのに、活動の拠点を持つ若い人たちが集まる魅力的なまち、753village。前編では新しく地域に入ってきた人たちを中心に紹介しましたが、後編では彼らが集まるきっかけをつくった地主の齋藤さんのインタビューをお届け。古くて魅力的な建物が多い秘密も教えてもらいました

地域に人が集まるようになった原点「「なごみ邸」」と、それをつくった地主の齋藤さん

地主である齋藤好貴さんが「なごみ邸」を始めたのは20年ほど前。R不動産がスタートしたのも同時期なので、当時の世の中の様子はよく覚えています。

今では広く知られている「リノベーション」という言葉すら、知る人が少なかった当時。まちづくりは行政が主導するものというイメージで、一人の個人が地域を変える取り組みなど、ほぼ聞いたことがなかった時代です。

そんな中で地域の将来像を考え、古い建物の活用によってそれを実現しようと考えた齋藤さんの先見の明に驚かされます。

当時を振り返って齋藤さんはこう語ります。

「当時、『空き家』という言葉はありましたが、『空き家活用』という言葉は聞いたことがなかったと思います。でもこれからの社会を考えると、それが必要な時代になっていくだろうと。私にとってそれは『生き残り戦略』でもありました。

古い建物をただ壊して貸家をつくるのではなく、50年、100年と長い目で見て “まちづくり”をしないと、どこも同じような賃貸物件ばかりになって、まちとして生き残れない。駅から何分、築何年、広さは何㎡という物差しで測られるだけでは、まちとして取り残されて、どんどん廃れる。そのときに慌てても遅くて、長いスパンで考えておく必要があるんです。そうじゃないと業者からの紋切り型の提案を受けるだけになってしまう。業者やディベロッパーに頼らないと土地活用ができないというのは、違うんじゃないと思っています」

しかし初めから自信や確信があったわけではないという齋藤さん。

「私の場合は自分で動いてみるんです。まずやってみて軌道修正していく。人任せで情報だけを見て考えるということはしないんです。それが全部成功するわけじゃないですが、失敗と思わずに『次はどういうしたらいいか』と考えて、他の人とコミュニケーションを取りながらやっています。楽観的な性格なんでしょう」

古い建物が多い地域の秘密

この地域を訪れて、まず驚かされたのは雰囲気の良い、古い木造住宅が多いこと。それが素敵に活用されていることが、地域の魅力になっています。

でもそんな素敵な建物が多いのは、偶然ではないのだと齋藤さんが教えてくれました。

「私の家は950年続く地主です。終戦直後、ここがまだ田畑だった頃に祖父が『これからは一家に1台車が必要になる』と言って広い道を引き、庭先に車が入る大きさに区割りしました。当時としてはとても広くて『何でそんな無駄なことをするんだ』とよく言われたそうです。

だから建物も大きくてちゃんと庭がある。そういう暮らしができる経済力のある人たちに来てもらうことができたんです。そして借地にしたことで、建物や庭にお金がかけられた。借地人の方たちは3代目。4代目の方もいます」

「ここに根付いている家や、人の思いを土台にして、その上に新しい人や、活力を持っている人たちのエキスを入れる。そうすると建物がもっともっと魅力的になっていきます。どんな新しい素材やものを使うよりも、それが魅力を感じてもらう一つの手法なんじゃないかというのが、私の考えです。

古い建物を生かしていろんな仕掛けをし、人の流れを作ることを積み重ねていくと、まちって生きてくるんです。そこで人が楽しみ、生きがいや活力を感じることで、地域が変わっていく。

最初は冒険でしたが、そういう地域になることを目指して、起点となることをやってもいいんじゃないかなって思ったのが始まりでした」

サロンなどを開きたい人がレンタルで使える「季楽荘」も、すてきな庭のある建物

これからの地域を考えるヒント

ただ土地を貸すだけでなく、地域の未来にコミットすることで、地域の生き残り戦略を描き、実現してきた齋藤さん。そのポイントは借り手との関係づくりにあるといいます。

「今では、家や部屋が空いたら住みたい、というウェイティングが集まる状態になりました。そうすると家を壊す必要がなくなる。そうやって自分たちにも良い状態になってきています。そしてもう一つ良いのは、住んでいる人たちと直接コミュニケーションが取れることです。それによって信頼関係が生まれるし、それが次の地域づくりの核になっていく。

私だけで一から十まではできません。関口さんをはじめ、素敵な人たちとの縁があって、地域の魅力が生まれていく。こういう関係性はすごく良いですね」

前編で紹介した「Coco-ya」を建てるためにエントリーした市の助成金でも、齋藤さんが活動メンバーに入る形をとったそう。貸主と借主という関係を越えたつながりが、地域を魅力的にしているのが分かります。

地域のビジターセンターの役割も担う「Co-coya」

「最初に始めた『なごみ邸』も、単体の売り上げで経費がまかなえるわけではない。でも私はそこだけの収支じゃなくて、地域全体で見ている。波及効果がどう影響するかを考えているんです」

空き家の問題や、都市の課題を考えるとき、日本の不動産において所有者の権利が強すぎることが、原因の一つと考えられています。

それぞれの土地や建物の所有者は、個別の不動産の収益を最適化しようとします。経済成長期にはそれが良く機能した面が大きく、その効果もあって日本は戦後の短い間に、便利で、清潔で、安全な都市をつくることができたともいわれます。

その反面、地域の再生や活性化をしたい場合のように、地域全体で同じ方向を目指したいとき、所有が細分化され、それぞれが個別に最適化を考えている状態だと、それはほぼ難しいといえます。

そう考えると、齋藤さんのように地域全体で収益を捉え、長期的な目線で最適な状態を目指せる地主がいることの価値は、限りなく大きいといえます。そして地主がいない地域でも、それに代わる手法の開発が必要だと痛感させられます。

これからの地域を考える上で、たくさんのヒントを与えてくれた753villageでした。

前編はこちら
人や活動が集まる小さなまち 753villageとは?(前編)

(写真:阿部 健

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