column 2024.2.29
 
【シリーズ】郊外くらしラボ

住宅地づくりでの、定期借地の可能性 (後編)

小谷実知世(doma)
 

家を建てるとき、土地を買わずに借りる、定期借地の仕組みを使った分譲の可能性を考えるインタビュー。後編では、定期借地が生み出す工務店と住み手との関係から、地域のこと、まちの魅力づくりまで、さらに掘り下げます。

事業領域は“建築”ではなく“暮らし”

――工務店として定期借地型分譲にかかわる価値をどのように感じていますか?

売却後、住人の皆さんとの関わりがほぼなくなってしまうディベロッパー業とは異なり、工務店は住宅に対し、ずっと“製造者責任”を負っているようなもの。不具合や故障が出た際は、すぐに出向くのはもちろん、いずれは売却する可能性もある資産なので、家を美しく保てるよう掃除やメンテナンスの講習会を企画したり、木々の手入れについてお声がけしたりします。また定期点検なども実施しています。そのため住んでいらっしゃる間も、売却される際も、弊社にご連絡いただく機会が多いのではないでしょうか。

今は時代の転換期。“つくる・売る”がハイスピードで行われていた時代から、新築着工戸数が減少する時代へと移り変わり、いい関係のお客様がたくさんいるかどうかが問われるようになります。

そんななか定期借地型分譲(以下、定借)のお客様とは長くいい関係が築ける可能性が高いと思います。

その分、手間も発生します。でも僕らの事業領域は、もはや建築ではなく“暮らし”です。お客様は暮らしに対し、長くサポートしてくれる存在を求めているのではないでしょうか。利益が出ることは大事なことですが、準備に時間やコストがかかっても、10年後の資産になるかどうかを僕らは見ています。

定借の心配事として、売却したいときに売れるだろうかというご質問をいただくことがありますが、僕たちは売れると考えていますし、実際に売ってきました。

ただ分譲であろうが定借であろうが、資産をどう保つかという話は、お客様と工務店が一緒になって考えていかなければいけません。どちらかだけでは難しいのです。そういう意味でも、お客様との信頼関係はとても大切だと感じています。

まちを思う人でまちをつくる

――建築家が定借にかかわることについてはどうお考えですか?

ぜひ建築家の方にも積極的にかかわっていただけたらと思います。集まって住む、小さくてもまちをつくることにかかわることは建築家にとって、とても魅力的なのではないでしょうか。

そして建築家や工務店が “自分のまちを良くしたい”、良くすることで “まちの資産を上げていこう”という発想を一緒に持てたら、素晴らしい価値を生むと思います。

建築家にとって定借は大きなメリットがあると思います。分譲でまちをつくろうと思ったら、土地を購入するなど、大きな投資が必要になります。しかし定借の場合、その必要なく進められる方法がいろいろと考えられます。建築家主導で、工務店と一緒になってまちをつくることや、自治体と組んでプロジェクトを立案することも可能になります。

ちなみに、「ソーラータウン多摩湖町」には当てはまりませんが、少し形が難しい土地でも定借は有効です。分譲物件だと住宅と道路をそれぞれつなげるよう設計しないとトラブルの元になります。そのため細い通路がたくさんある区画が生まれることがよくあります。しかし定借にすると、みんなが通る共用の私道をつくりやすく、形が難しい土地であっても、シンプルに美しく土地を活用することができます。

ディベロッパー任せにせず、地主さん、地元の工務店や建築家が関わり、いいまちをつくれば、それはおのずといい地域づくりにつながります。

定借はそれを現実にしてくれる手段です。事例が少ないため、「わからないからやらない」では、もったいない。まちのことを思うみんなで、定借の事例を増やしていくことができたら、まちはもっと面白くなるのではないでしょうか。

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前編はこちら
住宅地づくりでの、定期借地の可能性 (前編)

(写真:阿部 健

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