世界中を巡り、さまざまな食や暮らしのかたちを体験してきた、料理研究家のコウケンテツさん。その体験から、これからの暮らしづくりのヒントを探ります。
私たちが欲しい暮らしって?
そんな問いから始まった東京R不動産の住宅地づくり。
どんな環境で、どんな暮らしをしたいかを描き、それに共感する人たちと一緒に住宅地をつくることで、一軒の家では得られない豊かな暮らしを目指しています。
その「豊かさ」は、どのように育むことができるのか。
そんなヒントを探るため、日常の食と向き合う料理研究家であり、3児の父でもあるコウケンテツさんにお話を聞きました。
R不動産の住宅地づくり「柳沢プロジェクト」のパートナー「新田農園」の畑や、プロジェクトの計画地を見てもらいながら、お話を聞きましたインタビューが始まる前から、私たちの取り組みについて、「久しぶりに、ポジティブな未来予想図を語れそうです」といってくれたコウさん。
ちょっと驚きながらもお話を聞いていくと、その言葉に込められた意図が少しずつ見えてきました。
ごちゃ混ぜの食卓での、楽しい時間
お父さんが町工場を経営していたコウさん。幼少期を過ごした大阪の長屋は、いつも人でごった返していたといいます。
「言葉で説明するよりも料理を食べてもらう方が、自分のルーツや育ってきた食文化をストレートに伝えやすいですよね」
韓国から来たコウさんのお母さんは、よく近所の人に食事を振る舞っていたそうです。
「近所のおじいちゃんおばあちゃん、一人暮らしのおっちゃん、たまたま前を通った知らない人も呼んで」
いつも工場の職人さんや知らない人がいる食卓。「誰なん?」って。でもそれが楽しかったと、うれしそうに話します。
「政治の話や大人どうしの話を聞いて、僕は学校であったことを聞いてもらって」
ご飯があれば、年齢も性別も関係なくこんな素敵な時間を過ごせる。
「家庭料理を囲む環境が最高、っていう体験が、今の仕事につながったんです」
僕は地域の人に育ててもらえた
4人兄弟の末っ子だったコウさんは、「地域の人に育ててもらった」という感覚があるのだそう。
「保育園の迎えに来てくれた近所のおばちゃんの駄菓子屋で、しりとりやトランプをしてもらったり、近所のパン屋でドーナツをあげさせてもらったりして」
怖いおじさんに怒られることもあるけれど、常に大人が見てくれている安心感があったと振り返ります。
親になって直面したギャップ
一方で自身が親になったとき、そんな幼少期とは環境が大きく異なっていました。
「ストレスはありました。子育てってなに一つ思い通りにいかない。特に子どもが小さい頃って、日々自分の力が及ばないことが起きる」
都会での子育てで周りに頼れない現実に直面したというコウさん。
「僕が喘息持ちで、子ども3人に見事に遺伝して……。喘息の発作って夜中から明け方にかけて出るので、妻と二人で夜中に何回救急車のお世話になったか。思い出すと今でも冷や汗が出ます」
子どもに何かあった時、気軽に近所の人に他の子を見てもらえるような環境は、都会にはありません。
子どもの頃に地域の大人に見守られて育った分、自身が子どもを持つ身になったとき、のしかかるプレッシャーに追い詰められたといいます。
昔のつながりを、今の暮らしに
その一方で、各地での取材から、食の背景にあるその土地の暮らしを見てきたコウさん。都会では希薄になったつながりを、地方では地域のコミュニティが担っているのを見てきました。
「お寺や神社のお祭りなどをきっかけに人が集まって、地域の価値観や文化が継承されてきましたが、今はなくなってきています。人が集まる仕組みを、今の時代にあった形で受け継げたらいいですよね」
そうした“人が集まる仕組み”を、現代の価値観で実践していたのが、コウさんが取材で訪れたベルリンのコーポラティブハウスでした。
「世界的な物価高が続いていて、ヨーロッパの若い世代にとっても、家庭を築いて思い描くような住まいを手に入れること自体が、なかなか難しい現実があるんです」
そこは住居のコストが抑えられる点に加えて、自分の家だけではない共有空間があるところも、若者に支持されていたそうです。
しかしコウさんが共感したポイントが他にもありました。
「特にひかれたのは、適度な距離感が保たれていること。深入りしすぎない人と人との立ち位置が今っぽくて、過度なつながりに重苦しさを感じてしまう若い世代にとっても、すごく自然で心地いいんですよね」
自分たちの時間や空間を持ちながら、つながりを持つことに重きを置く感覚に魅力を感じたそう。
「いざという時にはシニア世代のご夫婦が若い家族のお子さんを預かるような、自然な支え合いがあって、その付かず離れずの絶妙な関係性が本当に魅力的でした」
価値観を共有できる人たちの集まりだからこそ、心地よいつながりが実現できているのではと語るコウさん。
ベルリンで見た暮らしと、R不動産の住宅地づくりを重ね合わせて「人のつながりを今の暮らしに合う形にアップデートしたような場所」だと期待を寄せてくれました
「地域で暮らし、地域で子育てをする。そんなコミュニティになる可能性を感じますね」
後編はこちら
コウケンテツさんに聞く、食がつなぐ暮らしの魅力 <後編>
(写真:丹下恵実)