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2025.5.26
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街を楽しくする
【連載】

高円寺アパートメント物語 vol.4 5/31マルシェ&内覧会

石母田諭(Open A)
 

住まい手が豊かな日常を育んでいる高円寺アパートメント。2025年5月末には隣の敷地に高円寺アパートメント2.0が誕生します。これを新たな節目として、この場所のこれまでの歩みとこれからをつづる連載コラムをリレー形式でお届け。最終回となるvol.4では、高円寺アパートメント2.0の設計者にバトンタッチして、設計のポイントや2.0に込められた想いをお伝えします(vol.1vol.2vol.3はこちらから)。

暮らしの手ざわりを引き継ぎながら、新たな風景をつくる

今回の計画が動き始めたのは、2020年のある日。「すぐ隣の敷地で、新築の高円寺アパートメントをつくりたい」という話が、施主であるジェイアール東日本都市開発から持ちかけられたことがきっかけだった。高円寺アパートメントは2017年に旧社宅をリノベーションするかたちで始まったが、実はその道路を挟んだ斜め向かいにも、かつて独身寮だった建物が長年閉鎖されたまま残されていた。

開業以来、高円寺アパートメントはここにしかない時間と独自の暮らしの風景を育んできた。小さな商いを営む店先にふらりと立ち寄り、芝生広場で遊ぶ子どもを見守り、行き交う人々が挨拶や会話を交わす。そんなさりげない日常風景が少しずつ街に馴染み始めたタイミングでプロジェクトは動き始めた。高円寺アパートメント1.0での発見や実践を引き継ぎながら、隣にもう一つ新たな風景を重ねることで、この日常と暮らしをより広く育てていくことがこの計画の出発点だった。

高円寺アパートメント2.0誕生後のイメージ
暮らしと街をつなぐ、店舗兼住戸

「クラフトアパートメント」という言葉が、1.0を改修したプロジェクトの原点にある。高円寺に流れる多様で自由な空気、サブカルチャーやDIY精神、個人店の息づかい、人懐こい風通しのよさ。そして、どこか暮らしにラフさや遊び心を大切にする人たち。そんな空気感を纏うこの街では、空間の完成度よりも「つくりこまない余白」や「住まい手が関われる余地」を大切にしたい。間取りや素材感から、それらをどう残していくかが企画を考える時のキーワードになっていた。

今回の計画において、かつての独身寮は、リノベーションではなく建て直すことになった。ゼロからの設計にはなるけれど、目指す方向性は1.0と地続きにある。そのため、“別物”ではなく、新築という形でその価値観を翻訳し直していくことが一つのチャレンジだった。

2.0の外観

新築棟となる高円寺アパートメント2.0は、5階建て。1階が主に店舗と店舗兼住戸、2〜5階が住居という構成となった。

計画の核となったのが、グランドレベルの設計だ。1.0の魅力の一つは、芝生広場に面した店舗や店舗兼住戸にあり、カレーの香りが漂うクラフトビール店、焙煎コーヒー店、設計事務所兼雑貨店など、どの店も“暮らしの延長”として存在している。そうした住まいと商いとがゆるやかに重なり合う暮らしの思想を2.0にも引き継ぎ、1階にも4つの店舗兼住戸を設けることにした。

1.0の1階には、芝生広場に面して店舗や店舗兼住戸が並ぶ
こちらが2.0の1階に並ぶ店舗兼住戸のスペース

1.0に比べると、人通りの多い高架下からはやや奥まった印象はあるものの、そのぶん“住”に寄せた設えを意識した。店舗兼住戸はすべてがメゾネット型で、1階は誰もが気軽に入れるよう開放感のある土間仕様に。2階はしっかりとプライバシーが守られた住空間になっていて、昔の商店に近い構成かもしれない。

そのなかで2区画は1階の大半を店舗スペースとして自由に開放できる構成に、残りの2区画はもう少しコンパクトな空間を用意してSOHO的な使い方も想定している。どちらも単なる店舗ではなく、あくまで暮らしの延長線上にあり、自宅でありながらお店としても街に開ける。そのグラデーションの幅が、この建物の1階にはしっかりと用意されている。

ショップ面積が広くとれる螺旋階段タイプ
住居面積を広くとり小さく商う仕切りタイプ

また、人通りが多い高架に最も近い場所には、店舗区画をやや広めにつくった。前面に芝生広場こそないが、ウッドデッキを設け屋外へとにじみ出す空間をつくることで、1.0の雰囲気と連続した街とのつながりを意識している。

さらに、店舗区画にはシェアキッチン機能も備え、個人でも気軽に出店できるお試し的なスペースがある。住人に限らず、地域の人も日替わりで手作りのお菓子や惣菜などを販売できるように。毎日異なる小さな風景が生まれ、より多様な風景と関わりしろをつくることが狙いになっている。

店舗区画の前にあるウッドデッキが街とのつながりを生む
多様性の住まい、半屋外の心地よさ

2階以上の住居は、かつて独身寮だった背景を踏まえて約25㎡の単身者向けの住戸が多い。ほかにも40㎡程度のDINKS向け住戸があり、2.0だけでも全体で10を超える住戸バリエーションがある。1.0はすべてが約50㎡でファミリーも多く、高円寺アパートメント全体にはあらゆる暮らしの形を受け止める広さの部屋があるというわけだ。

シンプルなワンルームのほか、玄関からバルコニーまでが土間でひと続きにつながるプラン、さらには住戸全体が土間仕様のプランなど、使い方やライフスタイルに応じて小さな作業空間や植栽スペースとして使うことができる。さらに2.0はペットの飼育も可能なため、土間は夏に冷んやり寝転んだり、冬に日向ぼっこするスペースとしても気に入ってもらえるかもしれない。そうした自由度のある空間をつくり、“半屋外の心地よさ”を最大限に取り入れている。

というのも、2.0の設計開始時は、まさにコロナ禍の真っ只中。不要不急の外出を控える必要があり、今後の先行きも不透明な状況にあった。だからこそ、住戸内にいながらも街の空気を感じられたり、“内と外”がゆるやかにつながるような空間を目指していった。土間やバルコニー、開口部の取り方、そして共用廊下までもが半屋外的な構成となっている。

リビングに土間を取り入れたタイプ

今回の2.0では、方角や階数にあわせて10の住戸タイプを適所に配置した。特に西側の住戸は1.0の中庭を借景にして屋外とのつながりをより感じられるプランに、1.0と距離が離れた位置の住戸は少し落ち着いた仕様にした。ほかにも個人で占有できるルーフバルコニーを広めに設けるなど、ひとつの建物のなかで多様なスタイルが共存している。どのプランも暮らしに屋外を取り込み、1.0にある緩やかな空気感を大切に引き継いでいる。

素材と余白でつくる、自分だけの住まい

1.0と同様に、いずれの住戸も、ただ住むだけの場所ではなく「暮らしをつくっていく」ことが前提にある。素材の選定にも、“クラフト感”と“高円寺らしさ”を意識して、打ちっぱなしのコンクリート、無垢材のフローリング、収納を自由につくりやすいミニマルなキッチン、自由にフック等を掛けられるメッシュなど、ラフでありながら住人の手が自然と入るような余白を設けている。これは実は1.0が賃貸住宅でありながら、部屋を自由に編集し楽しみながら暮らす住人たちの様子を参考にしたものだ。2.0でも、使い手が空間を育てていける喜びや“カスタマイズする楽しさ”を味わってもらえたら嬉しい。

このように部屋の設えを最小限に抑えることで、実利的なメリットもある。住み手の関わりしろを残すと同時に、天井高や空間のボリュームも大きくとれるため、部屋に入ったときの「気持ちよさ」が体感できるほか、最小限に抑えられた内装の設えは、コロナ禍以降急激に上昇する建設コスト向上に対して施主側にも大きな利点があり、双方にとってwin-winのデザインになっている。

1.0の住人が、自身でカスタマイズを楽しむ空間
もうひとつの風景をつくる、共用空間

2.0には、これまでの高円寺アパートメントにはなかった新しい試みがある。たとえば、1階には屋根のある共用空間としてシェアラウンジが設けられ、普段は仕事スペースとして使えたり、子どもたちが集まって一緒に宿題をする風景も想像できる。イベント時にはワークショップができる空間にもなるため、この場所に新たに暮らし始める人、これまで高円寺アパートメントに住んできた人、そして地域の人、そのすべての人が交わる接点としてこのシェアラウンジは用意されている。

さらに屋上にはコンパクトな広場がある。1階の共用部が住人同士がつながり、ときに”地域”との結節点になるなら、屋上は”住民同士”がつながる開かれた場に。季節ごとのイベントはもちろん、ちょっとしたピクニックやヨガなど、日々の気分転換においても使いやすいサイズの広場だ。

2.0の1階にあるシェアラウンジ。今後ここに家具が入り交流が生まれる場に

建物内には住人同士の接点を生む“ポケットラウンジ”と呼ばれる小さな共用空間も点在している。1.0では子ども達をキッカケに交流が生まれることも多くあるが、2.0では単身住戸が多くなるため、日常の中でさりげなく人と出会いお互いに顔を覚えられるような場所を用意したかった。

3階や4階に設けられたポケットラウンジは、シンプルに眺めの良い共有空間でもあり、一人でも立ち寄りやすいサイズ感と佇まいで、何気なく誰かと顔を合わせ、ふとした時にちょっと言葉を交わすことができる。当然、建設コストが高騰するなかでレンタブル比とのせめぎ合いもあったが、こうした共用空間をつくることができたのは、これまでの高円寺アパートメントの日々での発見や実践があったからこそ。施主にとっても大きな決断であり、高円寺アパートメントのコンセプトを守っていきたいという意思の表れでもあると思う。

屋上の広場やポケットラウンジなどの共有空間をいくつも整備
自分の暮らしをつくる場として

数年前にリノベーションされた1.0の空間を再び問い直し、隣地に新築として再構成する。そのプロセスは、すべてを模倣するのでも、まったく別のものにするのでもない、“ちょうどいい塩梅”を見つける試みだったのかもしれない。

集合住宅という異なる暮らしがいくつも存在する場所で、全体のラフさを共有しつつ、家族構成やライフスタイルに応じた選択肢を用意し、住人同士が自然とつながれる日常をつくることが重要だった。日々の暮らしのなかで新たな住人が1.0の芝生広場に遊びに行くこともあれば、これまで暮らしてきた住人が2.0のシェアラウンジを使っている風景も想像できる。もしかすると長期的には、2.0の住人が結婚を機に広めの部屋がある1.0へ移ることもあるかもしれないし、1.0で育った子どもがいつか2.0で暮らし始めるようなこともあるかもしれない。

今回を機に新たな風景と試みが加わり、最初はいろんな試行錯誤があるだろう。だけど、高円寺という街、そして高円寺アパートメントに関わってきた人たちの多様性や寛容さがあるからこそ、進めることができるプロジェクトなのだと思う。

そんな環境にあるこのアパートメントは、やはりどこか“人の顔が見える建物”であってほしい。そこに1.0と2.0という境界線はなく、ひとりひとりの営みがつながっていき、この場所がより多様で、より自由な暮らしの場となってくれたら。高円寺アパートメント全体が、完成された建築ではなく、“これからつくられていく風景”のキッカケとして、新たな暮らしの物語を加えてくれたらいいなと思う。

5月31日(土)には、高円寺アパートメントのマルシェにあわせて内覧会を開催します。入居をご検討中の方はぜひご参加ください!

・内覧会:11:00〜14:00(下記の募集ページから予約が必要です)
・マルシェ:12:00〜17:00(自由にご来場ください)

高円寺アパートメント

高円寺アパートメントウェブサイト
高円寺アパートメントInstagram

高円寺アパートメント2.0
新築棟の募集はこちらから(内覧会のご予約もこちらから)

店舗兼住宅
住宅(ワンルーム)
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