自分たちでも場を運営し活動をするなかで、ローカルに事業をする場として、僕らは荒川区に大きな可能性を感じるようになりました。そこで、荒川で活動する個性豊かな方々にインタビューを実施。皆さんが感じる地域のポテンシャルについて掘り下げます。
人を包み込むような柔らかな笑顔が印象的な大竹さん。荒川区を取材していると、何度もお名前が上がり、大竹さんに助けられたという方は数知れず 大きなものに巻かれない生活
古い商店街や細い路地が残り、人とのつながりのなかで、おのおのに事業を営む人が多い荒川区。ここで事業をする魅力を探るため、最初にお話を伺ったのは「花や MOMO」の大竹ミキさん。9年前から近隣の店舗と協力し、下町の小さなお店を巡るスタンプラリー「下町 花*フェス!」を企画・運営しています。
「よそいきの顔じゃなくて、このまんまの荒川区の顔が他の区に滲み出ていって、荒川おもしろいんじゃない? って、ピンときた人が自然に来てくれたらうれしい」(大竹さん) 「まわりからは、もっとわかりやすく言語化した方がいいって言われるんですけど(笑)、普段の荒川のよさを、買い物するなかで自然に知ってもらう、肌で感じてもらうイベントなの」
普段は少し入りにくいお店も花フェス参加店だと入るきっかけになると、年々、参加者数が増えている花フェスは、今年で9回目を迎えます。はじめるきっかけとなったのは、花を買いに来る人たちから受ける身の上相談でした。
「下町ではよくあることなんですけどね。話を聞いているうちに、一人暮らしでも一人暮らしじゃないみたいに過ごせたらいいなって。人と人がつながって、家族みたいなまちになるといいなって、自然と思うようになったんです」
大竹さんは、花フェス以外にも、パン、野菜、服などの販売をする「クラシノmarket」をはじめ、生活を充実させ、人をつなげるイベントを複数企画。遠くへ出かけなくても、おいしい野菜や魚を食べたり、知っている人から服やカバンを買ったり、髪を切ってもらったり、生活のほとんどのことが、暮らしているまち、荒川でできているといいます。
「コロナもあってこういう世の中になると、そういうことをより大切に思うし、ここでは大きなものに巻かれずに暮らす、ということができるのかなって思います」
取材は、花屋さんから少し離れた「MOMOの小屋」にて。ここでマーケットやイベント、ワークショップなどを開催している 花やMOMO
住所:東京都荒川区町屋8-6-6
電話:080-1198-3617
営業時間:<金>お昼頃〜18:00、<土>10:00 〜18:00、<日>10:00〜17:00
定休日:月~木
まちが好きな人が多いのが、荒川のいいところ
続いて向かったのは、熊野前商店街にある「natural cafe こひきや」。奥様が出身だったご縁から、三鷹市から荒川区へ引っ越してきたオーナーの朝倉脩登さんは、当初まちになじめるか不安だったといいます。
「地域は必ず食文化を持っていると思うんです。だから子どもが中学生ぐらいになったとき『ここのうどんよう食ったな』って思うようなお店にしないとなって思ってます」(朝倉さん) 小さい子からお年寄りまで3世代で食べられ、ゆっくり食べても美味しい麺ということで、出汁にこだわったうどんをメインに提供している 「引っ越し作業をしていたら、こっちをめちゃくちゃ見てるんですよ。気づいたときには、知らないおばあちゃんがうちの娘を抱っこしてましたね。うどん屋だというと、『なんでパスタをやらないの?』とか『僕は蕎麦派』っていう人もいて(笑)。そのコミュニケーションが面白いんですよね」
お子さんにうどんを食べさせ終わる頃に、お母さんのご飯が到着。「自分も子育てをしているので、カウンターからタイミングをみるようにしていますね」と、朝倉さん お店をオープンして約7年の朝倉さんのもとには、20代から30代前半の荒川区で飲食業をはじめた人やはじめたい人の相談が増えているといいます。最近では、こひきやで働いていたスタッフが、近所にお惣菜屋さんをオープン。人をつなげて、できる限り荒川のなかで解決できるようにしているのだとか。そんな朝倉さんが考える、荒川の魅力とは?
「人が優しいです、すごく。あとは、“まちが好きな人”が多いのが、荒川のいいところだなって思います。まちが好きだから、まちをウロウロしている(笑)。離れても戻ってくる人が多いですし、まちを『出たい』じゃなくて、『いたい』なんですよね」
それぞれが無理をしないまち
オーナーの浅見和宏さん・博子さんご夫婦が、築40年の工場跡地をリノベーションした、パティスリーカフェ「+h café」。1・2階がカフェ、その上が建築設計のアトリエと住居になっています。
移動カフェと実店舗のカフェを両輪でやるため、キッチンカーが置ける天井の高い物件を探してたどり着いたのが、工場の多い荒川区だったといいます。ただ、荒川を知らなかったお二人。物件を見つけてからは、まちをぐるぐるまわり、いろんな人に話を聞きに行ったそう。
建築家の浅見和宏さん。近所にあるギャラリーとカフェ「OGU MAG+」の建物の設計を、荒川区内の建築事務所、nmstudio, architects、Studio Grossとともに担当した 「デザートの盛り合わせ」レモンメレンゲタルト、くるみメレンゲ、自家製アイスなど、パリでお菓子作りを学んだパティシエの博子さんがつくる、本場の味が楽しめる 「いいなと思ったのは、都電荒川線があること。それによって、地域がつながっている印象を受けました。あと停留所ごとに昔ながらの商店街が残っている。それが昭和のような、時間が止まったような感じがあって。素敵な人も多くて、下町っていいなって」(和宏さん)
オーナーの浅見和宏さん・博子さんご夫婦。店内には、フランスで買い付けたアンティーク雑貨も並ぶ 通常、店内にはイベント時にキッチンカーとして出動する水色のシトロエンHトラックが置かれている(取材時は修理中のため不在だった) カフェをオープンして約4年。現在は常連さんも増え、地域のお店で店主どうしお互いに行き来しているそう。荒川に縁もゆかりもなかった浅見さんたちにとって、横のつながりがあることは安心感につながっているようです。
「自営業どうしの連帯感がすごくありますね。苦労されているのがわかるし、お互い様なところがある。そういう意味でも荒川は僕たちにとって心地いいです。あと僕もなんですけど、まちに関わることを、やらされているわけでなく、言われたわけでもなく、自然にやっている。そういうのも荒川っぽいですね。みんな無理してないんです」(和宏さん)
後編につづく
ローカルに事業をするまち、荒川の魅力とは(後編)
(写真:加藤雄太)