コウケンテツさんが感じた「ポジティブな未来予想図」とは? 後編では、食を起点にした人や地域とのつながりの先に、これからの暮らしのかたちを考えます。
農作業の後のご飯で、悩みも吹っ飛ぶ
食の取材をする中で、世界中の農家でお手伝いをしてきたというコウさん。
「土に触れ、汗を流している間は、目の前の作業に集中して無心になれる。そうしてリセットされた状態で皆とご飯を味わうと、ちっぽけな悩み事はどこかへ吹き飛んでしまうんですよね」と笑顔で話します。
日本でも、食の営みが人や地域とつながる場になることも。
「地方を訪ねると、農家の婦人会の皆さんが『この土地ならではの食文化や郷土料理を次の世代へつないでいきたい』という強い使命感を持って活動されているんです」
そのための料理教室などに幾度となく参加する中で、郷土料理を受け継ぎ、守ることの意義を実感したそう。
「農と食からコミュニュティができていることに大きな可能性を感じます」
それは食に関わり、各地で食や農をともにする時間や営みに触れてきたからこその言葉なのかもしれません。
R不動産の住宅地づくり「柳沢プロジェクト」のパートナー「新田農園」の畑や、プロジェクトの計画地を見てもらいながら、お話を聞きました若者が集まる農園にあったもの
一方で、地域の取り組みに若い世代がなかなか加わらないという課題もあるといいます。
「だからこそ、ただ過去の形を再現するのではなく、今の時代にあった新しい価値観を掛け合わせていくことが必要なのだと思いますす」
そんな例として、全国から若い世代が集まる長野県の農場を取材で訪れた話を聞かせてくれました。
「元は企業に勤めていた方が、ゼロから農場を立ち上げられた経歴をお持ちだそうなんです。今ではその理念や挑戦に共鳴した若い世代が、全国から続々と集まってきています」
若い世代が農家になることを支援しているその農場では、未経験の若者も、住まい付きで受け入れているそう。
「荒れてしまっていた土地が息を吹き返すことで、その地域ならではの美しい景観が蘇ってくるんですよね。風景そのものが再生していく様子に心をひかれます」
さらには都会で疲弊してしまった若者たちが、自分を再生できる場所になっているという一面もあるといいます。
若い世代が暮らしの拠点や、安心できる居場所を持つことに将来像を描きにくい時代。だから「そこに住がついているのがさらにいい」とコウさんは話します。
食だけでも、農だけでも、住だけでもダメ
若い世代が新しい価値観でつながりを取り戻していく。そのつながりは一つの要素だけで育つものではないとコウさん。
さまざまな要素が重なり合うことで、人とのつながりは生まれていく。その一例として、高知県の水産会社を取材したときの話を聞かせてくれました。
「実は、伝統的な『カツオのたたき』が存続の危機に瀕していると聞きました。なぜだと思いますか?」
原因はカツオ不足ではなく、たたきに使う稲わらの不足。減反の影響で稲わらが手に入りにくくなっていたのです。
そこで水産会社は、地域の農家に「お米をつくらせてください」と頭を下げました。
耕作放棄地を活用して米作りを始めると、地域にも変化が生まれたといいます。
「田植えの時期になると、近所の小学生や自治会の方々にも声をかけて、世代を超えたみんなの手で農作業を進めていくんです」
食への取り組みで地域の景色がよみがえり、地域の人たちもその活動を応援し、みんなで協力し合う、良い循環が生まれました。
「食だけでも、農業だけでも、住環境だけでもなくて、それぞれが日常の中で心地よく結びついている状態をつくることが、これからの暮らしづくりにおいて大切な鍵になると思うんです」
「新田農園」とR不動産では、畑を地域に開く取り組みとして、農園でのイベントなどを行ってきました住宅街でも農を中心に集まれる
東京R不動産の住宅地づくりでも、農家と協力したプロジェクトを進めてきています。
コウさんも「まちの中に、地域に根差した農家さんがいて、集まれる場所になると、すごくいいですね」と期待を寄せてくれました。
「未来にポジティブな展望を描きづらい時代だからこそ、誰もが素の自分でいられて、肩の力を抜いてつながれる『安心の場』を地域の中に整えていくことが求められているんですよね」
コウさんのその言葉は、インタビューを通して何度も立ち返るテーマでした。
コウさんの幼少期と同じ風景を再現することは難しい。それでも誰かと食卓を囲み、土に触れ、ふとしたきっかけで人とつながれる。そんな日々の小さな豊かさを積み重ねられる場所があれば、そこは安心できる居場所になっていくはずです。
コウさんが話してくれた「ポジティブな未来予想図」は、そんな暮らしの風景なのでしょう。
前編はこちら
コウケンテツさんに聞く、食がつなぐ暮らしの魅力 <前編>
(写真:丹下恵実)