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column 2018.11.30
 
「甘夏民家」が提示する、風景の残し方【前編】
室田啓介(東京R不動産)
 

楽しみながら不動産賃貸業をする大家さんが増えてほしい! ということで、「旅する大家」のニックネームで6棟の賃貸住宅を経営する横山 亨さんに、シェアハウス「甘夏民家」でお話しを伺ってきました。

シェアハウス「甘夏民家」の前で、横山 亨さん(左から2番目)と

室田:“自宅兼シェアハウス兼カフェ”って珍しい形態だと思いますが、どのような経緯でこの形になったんでしょうか?

横山:まずこの建物の立地の説明からしますと、鎌倉最古の神社である「甘縄神明宮」や、有形文化財である「長谷子ども会館」「加賀谷邸」、そして「川端康成邸」に囲まれ、目の前の路地は人力車が通る、まさに鎌倉ならではの風景が残る貴重な立地なんです。
自分が買わなかったら、高い確率で建て売り住宅になっていたんですが、ここは絶対に建て売りになってはならない場所だという信念がありまして。
もともとシェアハウスをやりたかったわけではないのですが、自宅として住宅ローンを組むには大きすぎる物件だったのと、銀行を説得するためには事業として成立する計画が描けなければいけなかったことなどから、この形になりました。

室田:先日テレビの取材もあったと伺いましたが、そうした取材は多いですか?

横山:いえ、今日の取材は大家としての自分が対象ということでしたのでお受けしましたけど、基本的には取材や撮影をお断りしているんです。
一人でも入りやすく、落ち着ける空間をつくりたいと思っているのと、鎌倉にはたくさんの店があり、競うように雑誌やテレビ、SNSに出ていますが、自分が世界中を旅して記憶に残るのは、事前に調べたところではなく、たまたま現地を歩いていて「面白そうだ」と入ったら、「なんだこれ!?」とワクワクを感じられたところだったりするので。

「甘夏民家」に併設されたカフェ「雨ニモマケズ」

室田:確かにそれは、自分自身の旅行の経験からも納得できますね。ちなみに先日のテレビの取材はどんな経緯で受けたんですか?

横山:経済的にも成立する古民家の残し方を、目に見えるサンプルとして提示したいと思い、お受けしました。
鎌倉には古民家がたくさんありますが、相続が発生して、相続税のために売らざるを得なくなると、いとも簡単に更地になったり、建て売り住宅になったりしてしまいます。
例えばこの建物のように、入口が1カ所しかない古民家を購入したいと思った時に、融資を受けようとすると、まずは1/2以上を居住スペースにして住宅ローンを使うことを思い浮かべますよね? でもこの物件のように、金額が住宅ローンで借りるには高すぎる場合はどうしますか?
僕はこの建物を取得するために、別の物件を「共同担保」に入れたり(※)、売却して自己資金を増やしたりと、出来る限りの手を尽くしました。
いくら「鎌倉を世界遺産に!」なんて声を上げても、実際に風景を残すためには経済的に成立する仕組みがつくれなければ、風景なんて残せないんです。それを伝えたいと思いました。

室田:素晴らしいですね!
確かに、「古い建物を簡単に取り壊さないで欲しい」という意見は多いですが、じゃあ「リスクを負って、残すことにコミットするのか?」と迫られたら、大半の人は二の足を踏んでしまうのが現実ですよね。

※一つの債務の担保のために、複数の物件を提供すること

四季の移ろいを感じる「甘夏民家」の広々とした庭

「旅する大家」が誕生するまで

室田:「旅する大家」と呼ばれる横山さんの経歴にもとても興味があるので、伺えますか?

横山:18歳で山形県から上京して、音楽やファッション・建築にハマり、渋谷・六本木などのクラブに通う生活をしていました。20歳から25歳までは、世界中を放浪しては、お金がなくなったら帰国して、また仕事をしてお金を貯めて放浪する、を繰り返していました。
長旅から帰国するたびに、日本ではなんでこんなに非常識に生きることが難しいんだろう、と感じて軽いアルコール中毒になってしまったんですが、ニューヨークに数ヶ月住んでいた時のルームメイトの紹介で、大手損保会社に就職できることになったんです。
そこで3年ほど真面目に働いたんですが、また放浪癖が出てしまって、退社して今度は日本中をバイクで回っていたんです。そんなタイミングで、昔インドで出会った女性と付き合い始め、結婚することになって、再度社会復帰することになるんですけど。ここで大手不動産会社に入ることになりまして、売買仲介や不動産コンサルティングを学びました。

室田:ではそこで一気に不動産のプロになって、ご自身も不動産賃貸業に目覚めたという感じでしょうか?

横山:はい。不動産会社に勤めるかたわら、自ら物件を買ったり土地から新築したりをいくつか経験しました。
ただ最初に購入したアパートで人が亡くなってしまう出来事があって、すごく落ち込みましたし、深く考えさせられました。それまでの自分は、いつか不動産でお金を稼いだら仕事を辞めて、また世界中を放浪してやろうという程度の考えだったんです。でもこのことがキッカケで、自分の甘さを思い知って、反省しました。
利回りだけを追求すれば、小さな土地に建ぺい率、容積率ギリギリまで建てて、3点ユニットバスの小さな部屋を最大数つくることが多くなるわけですが、そんな風に大家の利益の最大化のためだけにつくられた建物なんて快適なわけがないし、それなのに「いい人に入ってもらいたい」なんて自分勝手な考えは通用しないということに、初めて気がつきました。
それからは、絶対に人が亡くなるようなアパートをつくってはいけないと心に決めて、全部のアパートを自分自身が管理して、足しげく物件に通って、掃除も自身で行うようになりました。

室田:不動産と向き合うスタンスが変わることで、どんな影響がありましたか?

横山:掃除の時などに入居者さんと会うと、誰でも僕を知っているし、近所の人も僕を知ってくれる状態になりました。
頻繁に通えば建物に愛着も湧くじゃないですか。逆に行かないと、あまり近寄りたくなくなっちゃう。入居者さんから何か言われたらどうしよう、と思って近寄るのが怖くなるんですよ。
そういう物件にいいお客さんが入ってくれると思いますか? それで入居者が決まらないからって管理会社のせいにする人は多いですけど、それは自分自身の大家業との向き合い方がその結果を招いている、という風に考えるようになりましたね。

室田:それは本当におっしゃる通りですね。

(後編に続きます)

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