全国を文字通り駆け回っている、R不動産のディレクター馬場正尊が、見たこと・聞いたこと・感じたことを、気まぐれにつづる新コーナー。今回は、デザインと工夫でコストを抑えながら画期的なリノベーションをしたアーケードに、名古屋の商店街で出会ったようです。
名古屋駅からほど近い「円頓寺商店街」。そこで革命的なアーケードのリノベーション風景を発見した。
これは全国にあるアーケードの老朽化に苦しむ商店街の救世主となるようなプロジェクトだと思う。
現在、商店街のアーケードの多くが老朽化による危機を迎えている。
そのまま放置すれば雨漏りや崩落の危険性があり、解体を選択したとしても、かなりの費用がかかる。底をつきつつある組合費、減少する商店主がそれを捻出するのは大変なことだ。
またアーケードを撤去してしまうと、商店街の終わりを誘導してしまうかもしれない、という心配もある。
日本中のアーケードが直面している課題、そこにはなかなか解決の糸口が見つからないと思っていた。
しかし、その状況を打破した商店街が存在したのだ。それが名古屋の円頓寺商店街。リノベーションによってそれは、見事に生まれ変わった。
まず写真を見てもらうのが、何よりも説得力がある。
今回、設計を手がけた市原正人氏と齋藤正吉氏 にインタビューを行った。そこにはいくつか画期的な工夫があった。
1. 構造体はそのまま。塗装してサビから守るだけ
構造体はほぼそのまま使っている。スケルトンにすることによって、構造美が逆に際立っているくらいだ。それを濃いグレーに塗装することで、ノスタルジックなデザインにさえ見える。
塗装は錆止めにもなっていて一石二鳥。色の選択が重要だということを再認識。
2. 屋根を透明なポリカーボネートに。自然光が降り注ぐ
このアーケードはとにかく明るい。昼間は照明もないのにさんさんと日光が降り注いでいる。その柔らかい光がなんとも心地よい。
これを可能にしたのが、不透明だった屋根を撤去し、ポリカーボネートという透明素材に変更したこと。
とても軽い素材なので、ガラスよりも構造体に負担をかけない。めちゃくちゃ賢い素材の選択。アーケードの屋根は、これでいけるんだなぁ。
空が見え、天気の移ろいがわかるアーケードが実現している。
3. 蛍光灯ではない、暖かい色のLED電球を使った、星のような照明
このアーケードは夜が良い。
今までのような蛍光灯のアーケードは、確かに明るいけど白々としていた。でもここは柔らかい電球色。それがまるで星のようにランダムに散りばめられていて何ともいえないムードが演出されている。
しかも夜10時以降は、ベース照明のダウンライト、ペンダントライトと、順に消灯していき、最後には星空のような照明だけになるらしい。蛍光灯よりはるかに省エネルギー。
このアーケードにセンスの良い飲食店が集まり始めた要因には、おそらくこの照明の演出があると思う。商店街にとって、夜の光の演出はとても大切なものだということを再認識させられる。
4. 業者に丸投げせず、既製品の組み合わせでコストダウン
アーケード特有の機能として「排煙設備」というのがある。煙を天井から外に逃がすため、いざという時に地上からの操作で開くことのできる窓のようなものだ。
アーケードの専門業者にそれを依頼するとかなり高価になってしまう。
ここではそれを普通の建物に使う一般的な排煙窓をうまく取り入れることで、ずいぶん安くつくっている。
コストダウンのために細かな工夫がいろんなところにされている。それがこのプロジェクトを可能にしたといっても過言ではないだろう。
5. 画期的な工事費と保たれた絆
知恵を出し合い行った今回の改修。かかった費用は、専門業者が施工する場合の約2/3! 画期的なことだ。
何より大きいのは、このアーケードのおかげで、商店街としての一体感や絆が保たれたこと。そして、この雰囲気が次々に新しいテナントを引き寄せたことにある。
カフェ、ギャラリー、コンセプチュアルなゲストハウス、 バリエーション豊かな飲食店……。
老舗と新店舗が混ざり合い、懐かしさと洗練のバランスが取れた商店街になっている。今後、名古屋のちょっとした新名所になっていくはずだ。
何はともあれ、百聞は一見にしかず。アーケード存続に悩んでいる商店街の皆さん、行政の皆さん、一度見に行ってください。
夕方から夜にかけての時間帯が特にオススメ。薄暮の空が、ちょっとずつ暗くなっていく様子をアーケードの中から感じることができる。
どこかのお店に入り、一杯引っかけて外に出る頃、キラキラとした照明がとてもきれいだ。
商店街及びアーケードに関しての連絡先:
なごのや
住所:愛知県名古屋市西区那古野1
電話:052-551-6800
写真提供:ナゴノダナバンク