column 2017.5.19
 
【連載】街を面白くするルールをつくろう

第2回 公共と責任

林 厚見(東京R不動産/SPEAC inc.)
 

日本の街が面白く幸せであるために、新しいルールが必要なんじゃないか? というテーマのもと、西村 浩さん(都市・土木・建築デザイナー)と、東京R不動産の馬場正尊・林 厚見の3人で行った座談会の2回目。話題は公共空間における“自由と責任”の話へ。

ワークヴィジョンズの西村 浩さん(右)を迎えて行った座談会の2回目

「自己責任」公園

馬場:ルールや規制の話って、経済や安全の理屈が中心になって決まっていくことが多いんだけど、僕らのようにデザイン寄りの人たちは、これまで「情緒」の言語でしか主張してこなかったと思うんだよね。だからどうにもあまり強い力を持つことなく、気づけば街が退屈になったり、結果的に寂れていったりしている。だけど本当は面白い街とか、情緒がある都市っていうのは、結果的には経済を解決していくところがあったりするからねぇ。

林:特に長期的にはそうだと思いますね。ところで身近なネタでいうと、最近まわりで話題になることに、「公共空間の自由」がありますね。公園でキャッチボールできないのかよ!? みたいな……。このあたりも考えたいところですよね。

2016年にリニューアルオープンした南池袋公園。芝生が自由に使えてカフェもある、地域に開かれた公園(※)

西村:それって基本的には責任を負うのがキツいから、それを避けるために禁止だらけになるっていう話。行政も裁判になったりすると困るからね……。本来はルールでどんどん縛るっていうんじゃなくて、お互い何がよくて何がいけないかを分かっていて、それぞれにうまくやっていくのがいいんだけど。昔の商店街なんてそうで、自分たちでこうやっていこうというのを決めて、自由もありながら責任も負いつつ、っていうね。

林:そういうコモンセンスというか、暗黙の了解っていうやつも、広義の意味でのルールですよね。とにかく今の現実として、公共空間は大抵が責任を負わないためのルールでできている。それは少数のクレームが、絶大な影響力を持つからそうなっていく。それを健全化するための戦略は、かなり重要ですよね。屋外でコーヒーをドリップして売るというのも、保健所的に禁じられていますが、そういうのもどうにかしたいと思いますね。

馬場:保育園や、学校なんかでもそうだしね。街の話に限らず、日本は自己責任ていうのが認められにくいから、行政みたいにミスが許されない世界の論理でいえば、どんどん縛って自由がなくなるっていう方向にいくしかないよね。

林:僕は個人的に、自己責任っていうものが大好きなんですよね。自己責任は自由とセットですから。でも今の日本は逆に行ってる。これは放っておくと本当につまらない世の中になりますよ。自己責任は悪じゃない。自由と多様性につながり、それが活気も価値も生むんだ、という前提を、それこそルールでなんとかする必要があるかもしれない。「自己責任法」みたいなのとか……。

馬場:自己責任法! ウケる。中身は分からないけど、言いたいことは分かる。

文中の公園ではないですが、全国に広がっている「冒険遊び場」の例。写真は世田谷区の「羽根木プレーパーク」

西村:そういえば名古屋の公園で面白いところがあったの。もともと普通に遊具が置いてある公園だったんだけど、そこにいくと看板があって、でっかく「自己責任」て書いてあるんだよね。アツいおじさんたちが頑張ってそうしたらしい。川辺には手すりもないんだけど、そこでバーベキューやったりしてるんだよ。

馬場:なるほど。それが嫌なら入ってくるなと。なんかそういう「自己責任プレイス」みたいなのを探していくっていうのどうよ?

林:それはちょっと面白いっすね(笑)。あるいはつくってみる。

西村:公園で1日だけ「自己責任デイ」とかつくってさ、その日は何でもやっていい、ってしたりして。ちゃんと言っておけば変な責任は発生しないと。

馬場:「自己責任公園」は、普通の公園より全然楽しいことが起きてるぞ、ってことになればいいよね。こういうことを軸に、どうすれば行政が責任を負わなくてよくなるか、みたいなことを法律家と揉んでみたりして。そこから自由で面白い世界が生まれる糸口が見えるかもしれないな。とりあえず自己責任をどう位置づけるかについては、どういうことならありえるのか、法律家に話を聞きにいこっか? それでまた記事にしてもいいかも。

こちらも羽根木プレーパーク。公園が楽しそうにのびのびと使われていました

タワーマンションの話

林:ところでまた話は変わりますが、タワーマンションがバカスカ建ってます。個人的には魅力を感じないんですけど、欲しい人がたくさんいるから、まぁ建ちますよね。ちょっと郊外の駅前なんかでは、路地はなくなって焼き鳥屋が消えて、タワーが建ってサイゼリアが増える、みたいな。このへんはどうですか? 個人的には高層化を全部否定するわけじゃないですけど、少なくとも路面や1、2階のつくり方については、ルールを変えないと街が死んじゃうな、と。今のルールだと、高層化するためには建物の周りに空地をつくれってことになるんだけど、結果的に誰も使わない、半端な空地ができるのが嫌なんですよねえ。

馬場:確かにそうだよね。近いところでは、用途地域(建物の用途を規制するルール)も、面的にここは住居のエリア、ここは商業のエリア、っていう指定がされてるけど、縦の用途規制もあっていい。ここの1階は絶対に店舗、とか。ヨーロッパはそういうのちゃんとしてるよね。

林:僕は目黒駅前のロータリー裏の道が好きで、ここはいい具合の個人店が並んでるんです。こういうところはもう将来も個人店しか出せないようにした方が、中期的には価値が上がるんじゃないかと思ったりします。そういう“文化的な用途地域”みたいなものがあってもいいかも? とか。

西村:いずれにしても、ある程度きめ細かくエリアの特徴なり、コンセプトが維持されるようなルールはあるべきなんだろうね。ここはいいけどここはだめ、っていう、ある種の不平等は必要なんだと思う。いろんなことが平等主義すぎるところがある。それは地方都市でも一緒で、どこでも同じルールだと差別化できないから、魅力も出なくてみんなで沈むわけで……。都市経営ってそれじゃだめでしょ。

林:ですね。経営ってのは、他と違う価値をつくってナンボですからねぇ。

(第3回に続きます)

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※写真提供:Minamiikebukuropark Facebookページ

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