2009.2.24 |
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オフィスビル一棟使いの工夫
これ、地方に本社を持つ企業にとっての東京拠点のあり方としてはすごく良いモデルかもしれない。一棟貸し前提で建てられた内階段式のオフィスビルの中古物件が、神田や日本橋など東京の中心地には意外にごろごろある。フロア貸しがしにくいのがデメリット、でも一棟でワークスペースをデザインしたら、こんなにも快適だというデメリット→メリットの典型例。
このビルは「仲良し4組」という物件名で募集していた。日本橋小舟町のオフィス街の一角にたたずむ、かなり築年数の古いビルである。この物件は、かつて卸業の倉庫兼事務所として使われていた。東京駅から目と鼻の先という好立地の日本橋。けれども、4階建でエレベーター無し、古い、そのため家賃は破格だった。しかも内階段で全フロアがつながっているため、フロア貸しが非常にしにくく、客がなかなかつかずにいた。従来的に見れば使えないビル、である。しかし今回のケースを見たら、発想を変えて使い方を工夫するとこんなオフィスができてしまうのだと、このビルの見方ががらっと変わるはず。
<屋上:リフレッシュフロア>
テーブルとベンチが設置された屋上テラス。
スタッフのランチや休憩スペース。
クライアントを招待して小さなパーティを開くこともできる。
<4F:休憩フロア>
座り心地のよいソファとキッチンカウンターが設置されたリラックス空間。
ドリンクや軽食を楽しむことができる。
明るく清潔感のある仮眠室、シャワー室も備わっている。
<3F:会議フロア>
スタイリッシュで落ち着いた空間。
フロアの一角に擦りガラス張りのブースを設置。ミーティングルームとしても使えるが、プレゼンテーションの際には背面から映し出すプロジェクターの操作室になる。
<2F:業務フロア>
大きめのテーブルとソファを設置。従来の固定席を設けず、空いている席を自由に使うフリーアドレス制。
設置されているソファは特注品。座面の下に引出しが備わっており、そこに資料やワークツールを収納することができる。たとえテーブルの上がごった返していても、サッとこの引出しに突っ込むことができるので、突然の来訪があっても大丈夫。
<1F:エントランスフロア>
白と黒の市松模様が目を惹くエントランス。車4台を収納できる駐車場としても使える。
改修前はこんなビルだった。
「一見ボロくてぱっとしない、でも柱や窓のつくりといいこういうクラシックなかたちをしているビルというのは、案外壁を白く塗っただけでいい感じになるんですよね。ちょっとの工夫で物件の価値があがるビルだったりする」
そう語るのは、このビルのリノベーションを手掛けた ロッポンギアーキテクトの諸岡宜永さん。Pタイルだった床はじゅうたんに、壁は白く塗装し直した。また各階の水周りの壁をポーターズ・ペイントのライムウォッシュで、黄緑、赤紫、水灰色と、ざっくりとした感じに仕上げた(ライムウォッシュは石灰が入っているため、ほどよいムラが出る)。そんなに凝ったことはしていない。家具はイケアを上手に活用している。
ロッポンギアーキテクト
ポーターズ・ペイント
しかし味わいもさることながら、何と言ってもその使い勝手の良さである。本社の社員が東京に出張してきた時を例にあげる。着いたら2階のフリーアドレスのオフィスでデスクワークもできるし、席はなくても収納付きソファに書類などをしまえるから不便はない。3階の会議室でミーティングをした後に、そのままクライアントと屋上に上がって一杯飲む、なんていうことも。宿もいちいちビジネスホテルを手配するわずらわしさがなく、当然リーズナブルでもある。そしてアクセスはと言えば、行きも帰りも東京駅はすぐだ。もちろん単に便利さのみならず、こんなビルならば、その企業のブランドイメージもあがるに違いない。今、このビルは長野に本社を持つラナベイク(株)という企業の東京における拠点として使われている。
これは東京での支店の持ち方としては、きわめて良い回答だ。そして東京駅にほど近いこのエリアには、こんな中古ビルはかなりある。東京進出をしようとしている方、またオフィスを移転しようとしている方、こんなビルの使い方いかがでしょうか?