column 2004.11.20
 

日本橋倉庫コンバージョン顛末記|ハード編

馬場正尊(東京R不動産/Open A)
 

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日本橋倉庫コンバージョン顛末記|契約編

発見されたとき、それはほんとうに何もないコンクリートの空箱だった。 一階は駐車場、2 階は倉庫として使われ水道もトイレもない。でも僕には、そのなんの屈託もなく存在している空箱が、まるで住居や事務所に機能変換されることを待っているかのようにも見えた。

その欲求に耐えきれず、図面を描き、CG までつくって大家さんを説得、悪戦苦闘しながら銀行で改装費を調達したところまでのストーリーはすでに紹介した通りだ。

では、その後どうなっていったのか?

これはその後日談。実際に行われた改装のプロセス、そしてできあがった空間で行われ始めたことについてレポートだ。この空間に完成はなく、仕事の合間に棚をつくってみたり、ペンキを塗ってみたりカスタマイズしながら使っている。最近ではちょっとずつ大工仕事のスキルも上がっている。街の人々も通りすがりに声をかけてくれるようになった。

リノベーション前外観
ビルの間に静かにたたずむように建っていたところを発見された。コロッとしたコンパクトな存在感が気に 入った理由。一階は駐車場、2階は倉庫として使われ水道もトイレもない。なんの屈託もなく存在してい る空箱はまるで、住居や事務所に機能変換されることを待っているかのようにも見えた。

リノベーション前内観
奥の階段を登って二階へ。

奥の部屋に入るには、やけに重たい鉄の扉をあけなくてはならない。いったい何のためにこんな仰々しい扉が必要だったのだろか。天井には無数のビスが打ち込まれている。何かを吊り下げた後のようだ。では、いったい何を何のために・・・ここは食料品の倉庫だったと聞いているが・・・

想像は膨らむが、恐ろしいのでこれ以上膨らますのは止めにした。

鉄扉をひきずるように開けて、奥の部屋に入る。

窓の小さい空間はオドロオドロしい。光はほとんど入ってこない。閉じこめられた重い空気が充満していた。ここに立ちながら、まずこの壁にドカンと穴を開け、窓にしようと思った。

工事テント
というわけで、最初にやったのは2階の壁に巨大な穴をあけること。それが象徴的なことのような気がしていたからだ。

日本橋エリアの夜間人口は極端に少ない。働いている人々は多いのだが居住者がいない。だから土日はまるで別の街のようにガランとしている。その静寂を破るようにけたたましい音をたててドリルが壁に突き刺した。想像以上に鉄筋が多く入っていて大苦戦。最後にハンマーで残骸をぶっとばして巨大な穴が姿を現したとき、静かに思った。

「ああ、もう引き返せない……」

写真:阿野太一

二階マドぶち抜き
穴を開けた後、真っ暗だった2階は光であふれてまぶしかった。コンクリート臭い湿った空間にフレッシ ュな風が流れ込んだ。まるで閉じこめられた状況からやっと脱出したかのような気分だった。まさに状況 に風穴を開ける......。たったそれだけのことなのに、僕はそれが象徴的な行為のような気がして、意味も なく得意気だった。まあ、見ていたのはハンマーを持ったいかつい解体職人だけだったけど......。途中、 ハンマーを借りて思い切り振りかぶって鉄の塊をコンクリート壁に打ち付ける。手がしびれる。しかしそれ が妙に快感だ。破壊とはなんて気持ちのいい作業なのだろうか。ストレス解消。

写真:阿野太一

内装工事
ペンキは魔術的に空間を変える。

「とにかく、真っ白に塗り込めてやってください」

職人さんが3 日掛かりで床、壁、天井を塗りつぶしていった。みるみる空間が変化していく。リノベーションはつくり始めればあっという間。そのスピード感が新築との大きな差だ。

一階外工事>>配管工事
給排水は建物の中に埋め戻した後がある。大家さんに聞くと、幼い頃ここに寝泊まりしていた記憶がうっすらあるという。もしかすると住空間にも使われていたのかもしれない。

しかし、ガスは前面道路の下を通っている本管から引っ張ってこなければならない。
狭い道路の前に巨大な穴を掘る。前の道路を立ち入り禁止にしての工事だ。狭い道路に積まれた掘り 返した土の山。なんだか大袈裟な風景となった。

キッチンを発見
この空間のなかではオブジェらしいオブジェは、キッチンくらいしかない。
もっともシンプルな業務用キッチンを、合羽橋の厨房屋で発見して、即購入。この頃はもう、スッカラカン になっていたので、この発見はありがたかった。

穴開け
コンクリートの壁にアンカーを打ち込むにはふつうのドリルでは力不足で、振動ドリルというやつでより深 く、力強く穴を開けていく。

本棚づくり
水道管だけで棚をつくった。部屋の中にジャングルジムが出現したような風景、シンプルさと安さを両立 した。ここは手作り。

写真:阿野太一

完成外観
というわけで完成。まわりの風景にはまったく溶け込んでいない。入口は全面ガラス......ではなく硬質ビ ニールカーテンで、半分オープンエア。

さて、空間はできあがった。これから、ここで何が起こるのか?

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