column 2014.5.13
 

“循環する”オフィス空間

林 厚見(東京R不動産/SPEAC inc.)
 

積み重ねられた物流用のパレット。木のサッシで仕切られている会議室。床に使われているのは「東京・森と市庭」の間伐材。 都心のオフィスビルの中とは思えない、木の香り漂う空間ができあがりました。
東京R不動産のメンバーと建築家の田中裕之さん、その他クリエーター達とのコラボレーションによるオフィスデザインのプロジェクトをレポートします。

上は“アメスピ”の愛称で知られる無添加タバコ「ナチュラルアメリカンスピリット」を販売するサンタフェナチュラルタバコジャパン(以下、SFNTCJ)の本社会議室の写真だ。SFNTCJは昨年、拡大移転することになり、 港区赤坂にあるこのビルに移ることになった。

同社が借りたのは10Fと地下1Fと、離れた2つのフロア。「10Fからの眺望がとにかく素晴らしかった。赤坂御用地の森が一望できるなんて普通、ありえない。でもワンフロアでは面積が足りず、あとは空いていたのが地下1F。離れてしまうけれど、何か面白いかたちがあるのではないか」と語るのは社長の東さん。

サンタフェと言えば、アドビスタイルと言われる、日干しレンガと丸太を使った自然共生型の建築が並ぶニューメキシコ州の街。サンタフェナチュラルタバコはそんなヒッピーカルチャーが育まれた場所で始まった会社だ。だからグローバルになった今でも、地球とその自然、環境をリスペクトし「大地に責任を持つこと。」が会社の理念となっている。タバコでは世界初となる、米国農務省が規定するオーガニック認証も取得している。日本では「タバコは、 農業だ。」というメッセージが話題を呼んだ。

Before(左)10F。窓の向こうには赤坂御用地の緑が広がる。(右)地下は暗い印象だった。

東京R不動産の運営を行うSPEACが、この新オフィスの企画・設計を手がけることになり、 建築家の田中裕之さん、アートディレクターの小田雄太さん(COMPOUND)とともにデザインに取り組んだ。

ブランドの理念から抽出されたさまざまな思いをイマジネーションの源として議論を重ねた結果、10Fは社員のデスクやディレクタールームを中心としたワークスペースとし、B1Fは ミーティングやイベントで使うスペースにすることにした。空間デザインのテーマとしては、 会社のフィロソフィーを踏まえた議論の中から「Field(大地)& Leaf(葉)」という モチーフが出てきた。

B1Fのラウンジスペースは大地をイメージして、自然な素材で「アンジュレーション(起伏、うねり)」のある空間に。10Fのワークスペースは、真ん中に「葉脈」としてのロングテーブルを配置し、そこから各スタッフのスペースに枝分かれしていくような流れにした。葉脈の先には壮大な緑の風景が広がる。

検討初期の平面プラン。(図面をクリックすると拡大します。)

クライアントがこだわったのは、自然のマテリアルを使うこと。自分たちの働く空間には会社の価値観が反映されるべきであり、ならば、そこには資源の「循環」がかたちになっているべきだと。そこで、経年変化によって風合いも良くなるモノ、すでに役目を終えて原価ゼロとして倉庫に眠っている端材などを積極的に使用した。

東京・多摩産の間伐材の床材(R不動産も協力している、「東京・森と市庭」による)、木彫りの取っ手、アメリカに由来する独自の手法で縫製された革のハンドル。天然の麻のカーペット。家具も希少なアンティーク家具を多用した。「アンジュレーション」には運送用の木製パレットを使用しており、 それもやがてここでの役目を終えた後も再利用され世の中で循環していくことを前提としている。無機質なオフィス建材・オフィス家具はほとんどと言っていいほど使われていない。

仕上げの最終段階になると、空間の質に大きな影響を与えるアーティストたちが登場。「share the earth, share the ideas, share the love」と名付けられた会議室のペインティングをしてくれたのはPaint factoryの工藤さん。

またB1の大空間の壁に圧倒的な迫力の壁画を描いてくれたのは「Gravityfree」の2人。これ、すごいです。「大地に根ざして働く喜び」や「汗の美しさ」をイメージしたこの絵からはSFNTCJの理念と2人の思いが結びついて圧倒的な迫力で伝わってくるとともに、普通なら暗く感じてしまう地下空間に明るさが生まれている。このB1の空間ではお客様を招いてのパーティーや社内研修、外に開かれたイベントも行われる。

「Gravityfree」制作風景の模様。

このオフィスでは、会社としての思想を妥協することなく空間の隅々まで浸透させた形になっている。その根底にある考え方は決して奇をてらったものではなく、地球の持続性に向けた極めて真っ当な思いであり、そうした普遍性のある考え方でつくられた空間は、これからのオフィスデザインの一つの基本的なあり方を示していると思う。

大味な倉庫空間や古くレトロなビルでなくても、こんな空間をつくることはできるんです。(もちろん、その過程は結構大変なのだが……) 大きな会社のオフィスも、高級なビルの中の空間も、人工的で無機質な空間でなく、自然の循環や手触りを感じられる空間が増えて行って欲しい。

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