


イラストレーター・たかしまてつをさん宅
水色にペイントされたフローリング、壁に貼られたかわいらしいイラスト、あちこちにちょこんといる手作りの雑貨たち。思わず顔がほころんでしまう。今回おじゃましたのは、事務所兼倉庫ビルの一室を住居兼アトリエにリノベーションした物件。この空間を創り出したイラストレーター・たかしまてつをさんとアシスタントの中村文さんにお話をうかがってみました。


アーティストが倉庫のようなアトリエで暮らしていたりするのを本や雑誌で見ていて、今度引っ越すなら、こういうガラーンとした空間がいいなというイメージはあったんです。リノベーションという言葉は知らなかったのですが、自分の好きなようにできたらいいとは思っていました。雑誌『TITLe』(2003.10号/文藝春秋)がきっかけで東京R不動産を知って、アクセスしてみたら味のある物件がたくさん紹介されていて、実際内見したときはワクワクしましたね。この物件もほとんど即決でした。
電気の配線や水道、浴室のシャワーやバスタブの取り付け、トイレの付け替えなど、自分ではできない部分は施工業者の方にお願いをしました。これらにかかった費用はだいたい78万円くらい。あと自分たちで手を加えたのは主に床です。もとはベニヤ板をつなぎ合わせたような床の上にカーペットが張ってあったんです。最初は全部剥がそうと思っていたのですが、下にガラ(工事後に出る木材やコンクリートの破片)がたくさん残っていて、これを処理するのは大変そうだったので、見なかったことにしてそのままそっと元に戻しました(笑)。
なので、この床はカーペットの上から、板(5本セット900円くらい)を打ち付けているんです。始めてしまったら後戻りはできないし、本当にできるか少し不安だったので最初は躊躇しました。でも、友達が手伝ってくれたおかげもあって、床張りとペンキ塗りの作業はあっという間に終わりました。

最初この部屋を見たときは「ここに住むの?」と戸惑っていましたけど、実際作業を始めたら大工仕事が新鮮に感じたらしく、「今日はビールがうまいぞ」とか言いながらみんなワイワイやっていました。僕も楽しくて、つい電動ドライバーとか工具なんかも買っちゃいました。借りようと思えば近くのホームセンターで500円くらいで貸してもらえるんですけど。子どもの遊び道具みたいなもので、何でもいいからとにかく使いたくて、工具を持って「何か作るものない?」ってウロウロしてました(笑)。
あとは棚を作ったり、壁や天井など補修程度にペンキを塗ったりしたくらいです。最初は天井も全部剥がそうと思っていたのですが、天井裏にもガラがたまっていて、これを処理するとなると、さらに労力もコストもかかる。もともと素敵な物件だったので、できるだけそのまま使うことにしました。施工業者の方にお願いした作業でかかった時間は実質数日程度でしたし、床を張る作業も3日くらいで終わったのですが、仕事の都合で週末しか作業はできなかったこともあって、入居するまで1ヵ月半くらいかかりましたね。

キッチンやお風呂、洗濯など生活の基本部分も快適ですよ。ただ、浴室は床に水が落ちないように工夫しています。古い建物なので、念のため水が漏れないように床に専用の塗料を使って防水加工をしたり、シャワーカーテンを縫い合わせたり、曲がる素材のカーテンレールを使ってバスタブを完全に囲むように設置したり。それがちょっと大変でしたね。

ここはオフィス街だし、この建物もこの部屋以外は倉庫や事務所として使われているので、休日や夜は周りにほとんど人がいなくなるんです。だから隣近所に遠慮せずに大音量で映画を観ることができますね。屋上は共有スペースですが、ほとんど使う人もいないので、気兼ねなく自由に使える状況です。友達を集めてバーベキューとかしたいですよね。
実はこの建物、今でこそ事務所兼倉庫として使われているが、もともと約40年前に住居として建てられたもの。長らく眠っていた本来の魅力が引き出されたわけだ。自由に創って、自由に使えることを楽しんでいる2人。今後この空間から、たかしまさんの心和ませる作品が生まれていくのだ。


1967年愛知県生まれ。フリーイラストレーターとして、雑誌等で活躍。
1999年イタリアのボローニャ国際絵本原画展入選。
シリーズ第5弾『ビッグ・ファット・キャット VS ミスター・ジョ-ンズ』(作:向山貴彦 絵:たかしまてつを/幻冬舎¥952+税)発売中。
『きみに会えてよかった』(作:ひまわり 絵:たかしまてつを/ジュリアン出版局¥1,260+税)2004年6月3日(木)発売
ウェブサイト tt-web
