花想容
目白の閑静な住宅街の中に建つ元華族の邸宅。大正11年築のこの建物は、緑の生い茂る坪庭とそれを囲むように張り巡らされた濡れ縁と、思わず時間を忘れてしまいそう。この物件を改装してできたのがカフェ&着物ギャラリー「花想容」です。

2006年6月に目白でオープンしたカフェ&着物ギャラリー「花想容」へ行ってきました。このお店が入居しているのは、東京R不動産が取り扱っている物件の中でも、もっとも古い大正11年築の邸宅。表からは敷地内が見えないので中の様子は分からないのですが、細いアプローチを抜けた途端、目の前に風情溢れる世界が広がります。
まず目を奪われるのは、敷地の真ん中にあるお庭。ここには50種類の植物が植えられており、四季折々で様々な植物の姿が楽しめます。そして庭の奥に視線を移すと、渋いこげ茶色で深い味わいがあり、昨日今日建った建物では出せない風情の日本家屋が。長い年月を経てきたからこそのこの落ち着き。

花想容を運営するのは、このお店のオーナーであり群馬の桐生で創作着物の会社「みさち」を経営する中野さんと、着物コーディネーターの新津さんのお二人。このお店を始めたのは、着物が日常から遠い存在になっている中で、カフェを使ってカジュアルに着物を楽しめる空間を作ろうと思ったのがきっかけでした。そこで東京R不動産で探したところ、この家にタイミングよくめぐり逢ったのです。建物の規模も賃料も理想的で、駅から少し離れていますが、かえって騒がしくなく落ち着けます。何より都心でこのように趣きある環境でお店を出来るチャンスはなかなかない。
お店は茶室とカフェ、キッチンからなっていて、どこにいても庭の眺めを楽しむことができます。カフェに通され庭を眺めていると、ふと目に入ったのが水琴窟。水琴窟とは、地中に埋めた瓶に水滴音を共鳴させて音を楽しむ日本庭園の技法の一つで、戦前には町屋の坪庭などによく設置されていたのだとか。この家が建てられた当時からこの水琴窟は、ずっとここで音色を奏でてきたのだと思うと感慨深いものがあります。木枠の窓に入っているガラスも当時のまま。昭和以前に作られたガラスは表面が波打っているのが特徴で、今では製法が違うためほとんど入手できない貴重なものなのです。

この建物はかつて華族の邸宅であり、また総理大臣の近衛文麿の生家でもあった由緒ある場所。昔はこの辺り一帯が近衛邸だったそうです。この大邸宅のなかでほとんど唯一生き残ったのがこの物件だとか。大家さん曰く、この建物には3回の危機があったと言います。1度目は関東大震災。この家は新築だったため、倒壊せずに済みました。2度目は第2次世界大戦。この家の25m先にも爆弾が落ちましたが、幸運にもここは戦火から逃れられたのです。そして、3度目はバブル期の地上げ。固定資産税の上昇により持っているだけでお金がかかるので、この近辺にあった明治・大正の建物の多くは手放されてしまったのです。しかし、今の大家さんはこの家をとても大切に思い、そのお陰でこの建物は今日まで残ることが出来たのです。

今回、カフェ&ギャラリーにするにあたって室内を改装していますが、壁の塗り替え、畳・床の張り替え、お手洗いなど水周りの改修、濡れ縁の補強、押入れを商品ディスプレイ用の棚に改装、アプローチに階段を作るなどの改装を施し、かかった費用は総額で250万円くらい。
こうして出来上がったお店には着物や帯止めなどの小物、草履などが並び、初夏になれば浴衣もあります。また絞り染めを使った織物というのはあまり他では見たことがありませんが、オーナー中野さんの「みさち」オリジナルとのこと。とってもカラフル、見た目に美しい独特の発色なのです。

お話を伺っているうちに、日が落ちて徐々に薄暗くなってきました。まさにこの時間帯が花想容のベストタイム。庭の植物のシルエットが黒く染まっていく感じが、すごく良い雰囲気なのです。
ここでは月一でお茶会も行われているそうです。他にも、夏には鈴虫を庭に放し、夜には線香花火を楽しんだり。ジャズのミニライブなども行ったことがあるそうです。庭を眺めながら、着物姿でジャズを聴いて夕涼みなんていいですね。今度来るときは私も着物を着て、この空間でゆったりとした贅沢な時間を過ごしたいと思いました。
花想容ホームページ
*お茶会などイベントの情報もHPからチェックできます。
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