column 2009.2.24
 

パイプライン平和島スタジオ

武藤ふき子(東京R不動産/Antenna inc.)
 

平和島の3階建ての倉庫が、気持ちのいいハウススタジオに生まれ変わりました。

3F 陽が差し込む明るいリビング。

1F ガランとした倉庫風の空間。ちょっと廃墟っぽいシチュエーションの撮影向き。

3F 居住性を重視したフロア。撮影にも使えるメイクルーム+バスルーム。

以前、当サイトにて「本当にこんな物件あったんだ!?」というタイトルで紹介したこの物件。すべてのフロアの天井高が4m近くあり、面積も広く、少し古びているけれどいい雰囲気がありました。

これを改装したのは、現在4つの撮影スタジオを経営するカメラマンのTさん。これまで一軒家や事務所スペース、マンションのワンフロアなどを改装してスタジオにしてきたそうですが、今回はひときわ大掛かりな工事だったのでは?

Tさんと今回設計・施工を担当したアークオフィスの小田邊さんにお話を伺ってみました。

Tさん:
僕の本職はカメラマンですから、もともとスタジオ経営をしようと思ったわけじゃなくて、自分で撮影するのに使いたいスタジオがないから、自分でつくっちゃおうっていうことで始まったんです。自分だけでは使えないから、貸スタジオにしたわけだけど、何だか巡り巡って4つも持つことになってしまった。僕の場合、こういうスタジオをつくりたいって思って物件を探すというよりは、いい物件があったら、それの面白い利用方法を考えるという感じなんです。

4つのスタジオの特徴は、気持ちのいい自然光の中で撮影ができる環境であること。なおかつある程度広さと高さがあること。そしてもうひとつ、「快適に生活できる環境」であること。

ほとんどのハウススタジオは、キッチンやバスタブが置いてあっても使えなかったりする。そうではなくて、そこで寝起きをして、生活をして、仕事場としてのスタジオもあるっていうような、生活空間としても快適でありつつ、気持ちのいい環境で仕事がしたいっていう。

もちろん自分だけじゃなくて、スタジオを使うモデルさんにも気持ちよく過ごしてほしいですし。最悪、スタジオを誰も使わなくなったら、「じゃあ自分が住めばいい」って思えるようなところにしようっていう考えなんですよ。

白く塗装された外観。なんとスタジオのスタッフが工事用の足場に上って塗ったのだとか!

2F このフロアの壁と天井もスタジオのスタッフが塗装。きれいに仕上がっています。

小田邊さん:
実際に使うとなると、かっこよくするだけでは済まされない。たとえば3Fのバスルームは、新規に給排水の管を取り付けたり、3Fまで水を汲み上げるためにポンプアップ槽を設置したりといった大掛かりな工事をしました。出来上がりの見た目は同じでも、工事のレベルが全然違ってくるんですよ。

Tさん:
物件を見た時に、ある程度の完成イメージはできたけど、具体的な形になったのは設計しながらですね。

小田邊さん:
最初のプランからだいぶ変わりましたよね。

Tさん:
最初に見積をお願いしたら、トンデモナイ金額が出て。それで改装するところはするし、やらないところはまったくやらないというふうに発想を変えましたね。だから1Fは何もいじらない、2Fは床材を剥がしてコンクリート床にするのと壁を白く塗るだけ。3Fはバスルームとフローリングの部屋をつくって、あとは大きな窓を開けたいっていう話をしました。

とはいえ、工事の様子を見ていて、急に変更したくなることって絶対出てくるもので。しょっちゅう小田邊さんに電話していましたね。やっぱりあそこはこうしたい!って。

3F 補強しながらの 改装工事。大きな窓が開けられた。

3F 改装後。一日中陽が差し込む気持ちのいい空間に。

3Fの床に穴を開けて新たにつくられた階段。

小田邊さん:
最初は2Fの階段を抜くなんていう話もなかったんですよ。既存の小さい階段があるんだけど、1階と同じような形の階段をつくってしまったんです。

Tさん:
そう。3Fの床をぶち抜いてね。3Fの天井も、もともとあった鉄骨構造を生かしながら、新たに鉄骨を組んで、ゴツッとした梁をつくりました。わざわざそうするのは、造形物として写真に写った時に、きれいに見えるかどうかっていうことを考えてのことなんです。2Fにも自然光を入れるために大きな窓をつくりましたし、なんだかんだいって最終的には結構コストがかかっちゃいましたね。

小田邊さん:
リノベーションの場合、構造的な問題が必ず出てくる。たとえば、建物自体が歪んでいて、新しく入れる窓のサッシがきれいに納まらないとか。それをいかに目立たせないようにするかっていうのも、細かいことだけれど大変でした。

プランが変わっていく中で、まずは話をして、相手が伝えようとしていることを、自分なりに噛み砕いてゴールのイメージを共有するようにしていたけど、Tさんからどんどん面白い発想が出てくるから、現場によく見に来て、よく考えているなっていつも感心させられましたね。

パイプラインスタジオ
株式会社アークオフィス 

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