

本棚の家 - 小さな図書館に住む
たくさんの蔵書を収納するために、マンションの一室を“小さな図書館”にリノベーション。改装することで、ライフスタイルに合った住空間を手に入れたお客様の事例を紹介。

たくさんの本を収納できる本棚の家。設計/SPEAC(Photo:Masao Nishikawa)
東京R不動産のリノベーション・サービスの窓口からお問合せをいただき、ご自宅の改装を行ってくださったお客様のお宅にお邪魔してきた。ここは新宿近郊のマンションの一室。1970年代に建てられたこのマンションは、ゆったりとした庭とアプローチをもつ、とても環境の良い贅沢な建物。もともと福岡にお住まいだったAさん一家が、東京に移り住む為に10年ほど前に購入された物件だった。
日本近代史の大学教授であるAさん。研究の資料として所有している本の数はもともと多かったが、この10年間でさらに蔵書は増え続け、購入した普通のマンションの間取りでは本が収納しきれなくなってしまった。Aさん一家の生活スタイルにだんだん空間がフィットしなくなり、思い切って改装を決断されたのだった。
いただいた要望はとてもシンプルで、主に3点。
「開放感と明るさ、そしてとにかく大量の本を収蔵できること」
膨大な蔵書を、いかに快適におさめるかが鍵となった。
小分けになっていた部屋の壁や天井を抜き、居室を一度スケルトンに。天井は白く塗り、新たにフローリングを敷いた。次に「資料となる本を探すときは、全部の本が見えていた方が良い」とのことから、なるべく表面積が大きくなるよう本棚の位置を決定していった。結果、合計約40m分の本棚ができあがった。
長方形の角部屋という、もともとある特徴を活かして、2方向から最大限光を採り込み、書斎、ダイニング、リビングを繋げて空間を見通せるような、ゆったりとしたスペースをつくった。本棚は床から天井までびっしりと設置するのではなく、本棚と天井の間にスキマを設けて天井面を大きく見せる。空間を広く感じさせるためのひと工夫だ。本を大量に収納しようとすると、暗くて圧迫感のあるスペースになりがちな印象があるが、こうした工夫により、開放感のある空間に仕上げることができた。
「部屋の対角線を見通せるから、広く感じられるんです」とAさん。
空間がS字にクランクしているため、書斎にこもっている時には、リビングのテレビがついていてもあまり気にならないのもポイントだ。また、以前は小分けになった使いにくい部屋に窓があったため、気持ちの良い景色を楽しんだことがなかったそうだが、今では、春になると窓の外の桜を眺めながら、お仕事をされているとか。

(左)改装前。部屋が小分けになっており十分な採光がとれなかった。(右)壁と天井を抜いてスケルトンに。

(左)角部屋だったため、2方向から採光を確保。かなり明るくなった。(右)改装後(Photo:Masao Nishikawa)

(左)工事中(右)改装後。本棚にところどころ開口をあけて、圧迫感を減らしている。

(左)工事中(右)改装後。本棚にところどころ開口をあけて、圧迫感を減らしている。



(左)「実はこれでも、まだまだ足りない」のだそう。想像を超えた蔵書量にただただ驚くばかり。(中)かわいい小物のディスプレイが、アクセントになっている。(右)幸い、配管の無いスッキリとした廊下だった。(Photo:Masao Nishikawaこの列に並ぶ3点すべて)
引越した当初は、あまりに本が多すぎて詰め込むので精一杯だったが、資料を物色していくうちに徐々に整理されているそうだ。なるほど確かに、見渡すと写真史から建築史、幕末……大小さまざまな本が、関連するテーマごとに並んでいる。その一方で、整然と並んでいるかと思えば、途中で息子さんの本が並ぶゾーンがあったりする。この辺りは息子さんがいつもくつろぐ場所なのだろうか……と勝手な想像が膨らむ。棚に並ぶ背表紙を眺めていると、家族のそれぞれの居場所が見えてくるのが面白い。
また、改装の場合、工事を始めてみないとわからないことも多い。今回は廊下の天井を抜いてみると、既存の収納の上と玄関扉の上にスペースが生まれた。このようなちょっとしたオマケが付いてくることも、改装の楽しみのひとつだ。(右上の写真参照)
水廻りの改装も行った。それぞれ独立していたトイレ、お風呂、洗面所をまとめることで、前より大きなお風呂を手に入れる。少しでも広く感じられるよう、洗面所とお風呂の洗い場の床は同じ床材を連続させた。床材は銭湯などに使われる石で、水に濡れてもグリップの効く十和田石を敷き詰めている。
Aさんの改装が成功した秘訣は、明確な優先順位をお持ちだったことだと思う。全部80点を目指すよりは、他は50点でも良いけど、ここは100点じゃないといけないポイントをあきらめない方がその都度必要な判断がぶれない。リノベーションは、決まった枠の中で理想のすみかをつくる行為。当然あきらめるところも出てくるが、譲れない部分さえはっきりしていれば、「自分らしい生活とは何か」が研ぎすまされて、自ずと成功に向かう気がする。 明るくて風通しが良くて、本の匂いに包まれて、窓辺からは緑が見えて……さながら「小さな図書館に住む」という自分らしい住まい方を手に入れたAさんのように。
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