column 2011.6.21
 

あきらめない1Room賃貸の可能性

来生ゆき(R不動産toolbox)
 

2代目オーナーによる空室だらけの1R賃貸アパートのリノベーション。1Rだって工夫次第でやれることはある。
入居者が住み育てていく新しい賃貸のあり方を模索した事例を紹介。

※たくさんの方にご来場いただき、ありがとうございました!

フローリングは既存の上から白くランダム塗装。スチールと木の棚板がアクセントの部屋に生まれ変わった。( R不動産toolboxプロデュース)

2代目オーナーのこのままではダメだという危機感

父親が自宅に隣接して建て自己管理していた全4室の1Rアパート。3/4が空きで、その中には1年以上空室の部屋もあるという状況。父親が体調を崩したことをきっかけに、40代の息子さんは自分の将来計画とともに、このアパートをどう運用するかを本格的に考えだすことになる。

全国どこでも変わらない典型的な1Rの間取り。駅前には、RCのマンションが増え、立地、建物スペックではとうてい適わない。新宿まで電車で約20分の各停駅。周辺にも似たようなアパートが立ち並び、ただ賃料を下げれば決まるという状況でもない。単純に古さをカバーし、新しい水周り設備を入れ替えればいいのか。その場しのぎのリフォームでなく、この後10年、20年、安定して運用していけるような物件にするには、何か大切なのか? 自身も本業の仕事を抱える忙しい身。たまたま、昔目にしていた新聞の取材記事を頼りに、東京R不動産への問合せをいただいたのだった。

既存外観。全体に汚れも目立ち暗い印象。玄関あけてすぐ洗濯機、キッチン、奥に部屋という典型的な間取り。

表層のデザインを変えればバリューアップするわけではない。

約20平米の1R。いくら内部をまるごとリノベーションしてキレイにしても、面積は当然変わらないし、大幅なレイアウト変更もままならない。できる限り既存をいかし、必要最低限のコストで、1Rでも入居者にとって楽しく暮らすのにうれしい要素をいかにちりばめるか、それが今回のテーマとなった。
既存のフローリング、クロスの壁紙、押入、キッチン、外部空間。目にみえる範囲は限られている。今回は3部屋それぞれ異なるテーマで編集を行った。

見せ隠れする収納がテーマの部屋。押入にグラフィックの遊び心。

経済的な制約から払える賃料・面積の大小はあっても、狭いから不便でも我慢して暮らすというのは本来おかしい理屈だ。1Rに住む上で、部屋の大きさやキッチンのサイズなど解決しがたいことがある一方で、やりようによっては解決できるちいさな不満も実はたくさんある。例えば、壁にポスターを貼りたい、収納が足りないから壁面を生かして棚を取りつけたい等、内容の一つ一つは、普通に生活する上でしごくまっとうな要望ばかり。そうしたことに丁寧にこたえてあげるだけで、入居者にはその気遣いがきちんと伝わり、借りる決め手となるのだ。
たとえ賃貸であっても、自分で工夫して愛着がわく部屋で暮らせるならば、入居者は当然ハッピーだし、オーナーにとっても大事に使ってもらえ、長く居続けてもらえれば、双方ハッピーという関係性が成立する。

2部屋は、既存キッチンの扉だけを部屋にテーマに合わせつくりかえた。

毎日目にする・手にふれる所にこそ、こまかい工夫を。玄関サイン、棚、姿見、愛着のわくドアノブ、洗濯機の水栓金具もこだわった。

気遣いが伝わるバトンリレー

今回もう一つ特質すべきは、施工のチーム体制。通常通り、設計者が書いた図面をそのままに作ってくれる施工会社と組むのではなく、センスある若き職人たちを束ねて取り組んだ。その結果、キッチンの扉の再利用のアイデアであったり、カーテンレールであったり、今後部分的にも取り込んでいけそうな、細かいけれど、うれしいポイントがふんだんに盛り込まれる結果となった。(職人たちとの取り組みについては、R不動産toolboxコラム「職人たちの競演」をご覧ください)

新しい建物サインは、特殊塗装職人による細かい手書き作業! バルコニーのデッキなど外部空間にも部屋ごとのこだわりがある。

このプロジェクトをきっかけに、我々は、オーナーと入居者、双方のリクスヘッジはしっかり考慮した上で、海外のアパートのように、前の入居者のいい部分を引き継いで、自分で手を加えていけるような賃貸ルールを構築していけないかと模索している。場合によっては、意味のない原状回復をする費用が軽減できる可能性がある。それには、当然我々のような目利きが間に入り、「やっていいこと・悪いこと」や、「年季に入ったいい味わい」と「ただのボロ、汚れ」の違いをジャッジする必要があるのだが、これまでデザイン的な配慮が入る余地の乏しかった賃貸管理という分野に、オーナー、入居者、施工業者の間に立つ、我々ならではの新しい風を吹き込みたいと考えている。

既存の押入の壁を取り払いオープンにしたタイプ。空間の広がりを感じることが出来る。

オーナーの父親が大切に手入れしてきた庭を借景に。通常人気のない1Fだが、逆にこの部屋だからこそなウリをつくることが大切。

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