column 2009.7.28
 

小さなオフィスの新しい使い方「オフィス・エコー」

田中慶樹(東京R不動産)
 

東京R不動産で成約いただいた事務所物件が、リノベーションの結果、小さな気持ちいいオフィスになった。が、その使い方がちょっと変わっているらしい。東京R不動産 編集部は早速、取材に伺うことにした。

この立地!三越前を背にして進み、左に行くと人形町、右に行くと蛎殻町という分かれ道に挟まれた小さな建物。オフィス・エコーさんはこの建物の3階にある(カレー屋さんの上)

今回ご紹介する、オフィス・エコーさんは建築設計事務所。2008年7月に本格的に活動を開始。リノベーションを多く手がけている。事務所は、日本橋小網町の交差点に面している。元は廃墟といってもいいボロボロの物件がリノベーションされ、気持ちのいい空間になっている。

内部に入ると2面解放の窓。西向きだが、とても明るい。そして思いのほか静か。

独立。事務所をどのエリアで探すかは決まっていた。

自身の建築設計事務所を作ることにしたのが2008年。
エリアは決まっていた。

「自分が事務所を持つなら日本橋エリアと決めてましたね。古くて味のある小さなビルが多いことは知ってたんです。」

というのも江本さん、かつて門前仲町に住み、建築士の資格取得のための学校がある上野まで、自転車通学をしていた時期がある。

「自転車で、清洲橋を渡って、人形町や、馬喰町あたりを通り、上野に通ってました。途中、古いビルが沢山あるなぁ、どれもいい味だしてるなぁと思ってたんです。」

日本橋や銀座まで至便ながら賃料は相場よりも安いこと、また地域の歴史や文化に興味があったことも大きいとのこと。

「例えば渋谷とか表参道は、いうならば『何でもある』。できあがってしまったエリアだと思うんです。一方でこの日本橋エリアはいい意味で『何も無い』。これからのエリアだと思うんです。」

そして出会った日本橋小網町の「廃墟」。

そして、江本さんは、東京R不動産でこの物件に出会う。
東京R不動産での、物件タイトルは「日本橋小網町ノマディックショップ」。広さは63平米。店舗可能な物件で、立地の良さと、ガランドウな空間が特長だった。

「はじめて内部に入ると、ガラーンとしたワンルーム。天井にある、真っ赤なむき出しの鉄骨が目に飛び込んできました。即座に、この鉄骨にぶら下がりたい!と思ったんです。なかなか無いですよ、天井を抜いてる物件はあっても、鉄骨がむき出しなんて。これはいいなと思いました。」

まるで廃工場。天井には真っ赤なむき出しの鉄骨が。

見れば見るほどボロボロの物件。しかし廃墟といってもいい状態をみて、ワクワクが押さえられなかった江本さん。そのときまでに2年近く空き状態だったこの物件、江本さんにとっては「いい素材」だったのだ。

オーナーさんから改修費用を補助するとの連絡をうけ、ポンと背中を押されるように契約へ。

光が燦々と入る内部。

できるだけ何もしないリノベーション

そして「いい素材」を活かすリノベーションがなされた。

鉄骨、壁を白く塗る。床は雑巾がけしてから防塵塗料を塗る。角の引っ込んだ一角をトイレに。バーカウンター、大きなミーティングテーブルを設置。本棚は江本さんの手作りだ。塗装も自らおこなったという。

江本さん手作りの本棚。

壁には江本さんのお兄さんである江本 創さんの作品が。

広々としたトイレ。

「非常にシンプルです。ほとんどデザインしてない。デザインは必要ない空間だったと思います。時間が生み出した、そしてなかなかゼロからは作れない、特徴的な空間がすでにあった。それを活かしたいと思ったんです。」

これは、江本さんのリノベーションに対する考えにつながる。

江本さんが手がけるリノベーションは、できるだけ既存の空間を活かすデザインとなっている。また、キッチンなどの住宅設備、ドアハンドルなどの部品にモデルルームのリユース品を活用する取り組みも進めている。

世の中のリノベーション物件はお金をかけすぎなものが多い、という江本さん。そんなにコストをかけなくても、いろいろなものを上手に活かすことで個性的な空間は作れるという。

「でも、コストダウンは結果としてついてくるものであって、リノベーションの目的ではないと思います。リノベーションの真の目的は『使えるものを活かす』精神にあると思うんです。」

吊る その1、ハンモック

吊るその2、ミラーボール

使い続けることも大事だと江本さん。

「使い続けることで愛着がわく。つくってしまった傷さえも愛おしい。そういうふうに考えるようにしませんか?経年変化は避けられない。メンテナンスを楽しみましょうよ」

時間が生み出した、味のある床。

現在も清澄白河で自らリノベーションした中古の一戸建てに住んでいる江本さん。不動産の価値観に新しい軸を追加したいという。

「いまは建物が古くなるとすぐに価値がゼロになってしまいます。駅から何分とか、築年数とか、広さのような価値基準以外に、誰々が住んでいたとか、空間の気持ちよさとか、使い続けて出てくる味とか、数値化できない指標で不動産を評価できないか。建築設計やリノベーションで建物の価値を上げることができないか。私はそこに建築家として関わっていけたらいいなと思っています。」

事務所を使い倒す!

かくして、リノベーションは完了。この空間を事務所として以外にお使いだとか?

「いまは月に1度、最後の土曜日にここでクラブイベント【日本橋松尾倶楽部】を開催しています。2009年4月から始めてもう4回です。また、クラブイベント以外にも、セミナー会場やギャラリーとして貸し出したりとか、さまざまに活用しています」

使うその1:日本橋松尾倶楽部の様子。

使うその2:セミナー「大家検定」の様子。

使うその3:CET08の展示の様子。

使うその4:バーの様子。

なぜクラブイベントやセミナーを?

「はじめから事務所としてだけに使うつもりはなかったんです。最初はカフェをやりたいと思っていたんですが、まずクラブイベントを月1回開催することにしました。」

会社の規模を大きくすることよりも、人の出入りがどんどん増える場所を作りたい気持ちのほうが強いという江本さん。

「人が何かのきっかけで集まって、集まった人同士の出会いが新しいものを生み出すということに興味があります。」

普段は事務所として使い、ときどき貸し出したり、自らクラブイベントを開催したりする。これは、新たなオフィスの使い方の提案だ。

交差点を見下ろすこの場所に、人は集まってくる。

オフィス・エコー
〒103-0016
東京都中央区日本橋小網町18-9 司ビル3階
tel: 03-5460-8195
fax:03-5460-8196

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