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column 2012.5.1
 
受け継がれていくモノたち
長曽我部幸子(SPEAC inc.)
 

閑静な住宅街に建つ木造2階建の家。一見ごくありふれているように見えたこの家を、既存を活かしながら住まい手の愛着が湧くような賃貸用物件にリノベーションした事例のご紹介。

改修後の2階。外壁についていた建具をパウダースペースの仕切りに使った。(設計:SPEAC,inc

とある戸建ての物語

JR山手線の高田馬場駅から徒歩8分。この家は密集した住宅街に建っている。延床面積10坪と小粒だが、周囲のぎゅっと詰まった密度を少しだけ和らげてくれるかのような、小さな庭がついている。

木戸を開け、一二三石の埋まったたたきを進み、ウッドデッキに上がって室内へ入る。一歩足を踏み入れた瞬間、「おかえり」と言ってくれているかのような心地いい空間が出迎えてくれる。

ここには賃貸住宅だということを忘れてしまいそうな懐かしさがある。

(左)改修後の外観。ベランダの庇を取り、すっきりとした印象に。軒天井にはポイントの深緑色を塗装。(右)庭のコンクリートのたたきには一二三石を埋めた。奥のウッドデッキはガーデニングにも程よい空間。

改修後の1階。四方の窓を抜けていく風が気持ちいい。

実家の隣に建つ空き家を賃貸用に活用できないか。
オーナーご夫妻からそんな依頼を頂いたのがきっかけで、私たちは建て替えから簡単なリフォームまでを視野に入れた検討をスタートした。

初めての現地調査でわかったのは大まかに次の3つ。
・窓が多く南側からの採光があり、室内は明るいが耐震壁が不足していること。
・貸し易さを考えると水廻りの一新が必要そうであること。
・柱、梁、土台等の主要な構造の傷みはさほどなさそうであること。

(左)既存外観。周辺には同じタイプの戸建てがぽつぽつ。(右)小さいけれど素敵に化けそうなお庭付き。

既存内部。このままでは住めそうにない状態だったが、階段や建具は再生できそうだった。

戸建てをリノベして貸すという選択

このままでは賃貸に出せる状態ではない。考えられる活用の可能性を探った。 将来的には実家と一体の土地として再建築する前提で最低限のリフォーム程度とした場合、イニシャルコストは低く抑えられるが、借り手が付かない場合のリスクは高い。またアパートに建て替える場合には、必要な接道や隣地との距離が決まっている為、法規的に不可能であった。こうして今回はリノベーションを検討することになった。

この段階でオーナーご夫妻から管理がし易く、この家ならではの特徴をもった物件にしてほしいという要望を頂いた。それを踏まえ、構造補強や痛んだ部分の必要最低限の補修に加え、物件の引きとなるような間取り変更や設備更新をするという、設計費+工事費が長くても5年程で回収できるような提案をまとめた。

メインターゲットは20代後半から30代前半の男性。自分の城と思えるような住居をイメージした。サブターゲットとして住居兼オフィスとしての使用や結婚前のカップルも想定。学生街ではあるが、床面積からすると学生では手の届かない家賃となる為、ターゲットから外した。

想定の使い勝手を満たす為には、各層最大限に広がりを確保できるプランへの変更が不可欠だった。

1階は玄関をつくらず、ウッドデッキからベランダ用の引き戸サッシを介してフラットに室内へと入れるようにした。ターゲットの想定から浴槽の重要度はそれ程高くないと判断し、2階の押し入れだった場所にシャワールームを設置した。

全体的に収納量は減ったが、その分長手方向の空間の繋がりが得られ、南窓からの光が室の奥まで届き、実際の面積以上の広がりを感じられる空間になった。

(左)解体途中。壁下地はそのままに、仕上材を交換。2階の床が傾斜していたので、2階の床下地でレベルを調整した。(右)2階の小屋裏を解体すると、木造の醍醐味である丸太の小屋梁が出てきた。

大切なのはバランスを見極めること

2階建ての戸建て、しかも耐震補強を含めた内外装の工事ともなると、費用はかなり高額となってくる。マンションの一室リノベーションのように、専有部のみに手を入れ、共用部は管理組合にお任せ、とはいかず、築30、40年を過ぎた戸建てには外壁や屋根、構造等の傷みがあるのはよくあること。また、給排水管が他人の土地を通っているという可能性もある。昔はご近所付き合いが良好であれば問題なかったのかもしれないが、所有者が変わればその判断も違ってくる為、事前に配管ルートのチェックが必要だ。さらに庭や門扉などの外構の工事もどこまで手を入れるのか悩ましいところだ。

見えない構造や配管などにコストが掛かり、目に見えてくる仕上げや設備に掛けられる予算が圧縮されてしまうと、延床面積の大小に関わらず行う工事の工程は一緒なので、その分小さい物件の改修は割高に思えてきてしまう。

1階室内から庭を見る。ウッドデッキまで床が延び、室内がより広く感じられる。床材は R不動産toolboxでも取り扱いのある、クルミの無垢材

今回の場合、私たちはオーナーさんと一緒にターゲットの目線に立ち、希望の工事項目に優先順位をつけ費用を掛けるべき所とそうでない所の判断を重ねた。 例えば、居住者の快適性を考え2階の天井には断熱材を入れる。けれどメインターゲットの男性1人暮らしで使うキッチンはある程度の機能性があればよいので、シンプルで安価なものにする。 費用対効果を意識し、一つ一つジャッジしていくと、おのずとコストを抑えながらも全体としてバランスの良いリノベの形が見えてくるのだ。

「普通」なんてどこにもない

一見すればごく「普通」の家。けれど、実は普通の家なんてどこにもない。そこにしかないものが必ず隠れている。それを見極め、次の住まい手へと繋いでいくのがリノベーションの一つの使命ではないだろうか。

この家では既存の建具をなるべく再利用している。パウダースペースのガラスの框扉は以前ベランダと室内を仕切っていた外部建具だし、トイレの扉は2階の階段と個室を仕切る為に使われていた物だ。階段も手すりごとそのまま残し、傷みのある部分には補修を施した。そういう行為がこの戸建てにはとてもよく似合っているように思えた。
隣に住むオーナーのお父様が完成後の物件を見にいらした時のこと。トイレの扉を見てこう仰ったのが忘れられない。 「あれ?これは2階にあったあの扉じゃないか?前の持ち主がここに住んでいた頃、何度も直しにきたことがあるなあ。」

(左)トイレの扉はクロスを張り替えた。多少の曲がりや凹凸は気にしない、という姿勢も大切。(右)再活用したパーツたち。これからもどっしりと構えてくれる。

古いものは捨てずに直してまた使う。昔はごく当たり前のことだった。コストダウンの手法としての再利用、というちょっと味気ない考え方もあるけれど、その建物が建った当時その空間を構成していたパーツ達を補修したり塗装したりして使い伝えていくことは、持ち主や使い手、また時代によって住まい方が変わっても、この家がこれからも末長く愛されていく要素の一つとなるだろう。

(左)2階。解体後でてきた小屋組には既存の柱の色と合わせた染色塗装を施した。(右)ポイントの深緑色の壁が階段下へと誘う。

(左)一二三石。修学院離宮の庭からヒントを得た。(右)ウッドデッキ上の船舶照明。夜の庭を照らしてくれる。


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