2023.9.6
荒川の商店街に「土器の教室」現る!
大学時代の旧友2人による「土器体験教室」。物件探しに難航するなか「この広さでこの安さ!?」と驚いたのは、東京R不動産で募集していた「まちを面白くしてくれる店限定」という荒川区の物件でした。既製品の粘土を使わず「土を砕く」ところから始めるこだわりっぷりなど、お二人の土器への想いにも注目です。
「全然違うタイプなんです」と話しながらも、なんだか雰囲気の似ているお二人。我妻(あづま)さん(左)・西山さん(右)
「土器を製作する場だけでなく、土を砕くための、土砕き部屋(つちくだきべや)もつくれる物件を探していました」
そう話してくれたのは、荒川区にある土器作り体験教室「土の子」のお二人。同じ美術大学の陶磁専攻で出会ったのだそうです。
どこかノスタルジーを感じる、けれども活気のある西尾久の商店街にオープンした「土の子」に、開店までのストーリーを伺いました。
土器でいただくお茶は、口当たりがやさしく新鮮
土器というと、なんだか「大昔の物」だというイメージがあり、なかなか馴染みがないかもしれません。
〈土器と陶器のちがい〉
土器:低温で一度焼くだけ
陶器:低温で一度焼いた後、釉薬を付けて、高温で再度焼く
土器には小さな孔や隙間があります。そこに空気が含まれるため、熱いものを入れても持つことができ、さらに水を吸うのでパンやサラダなどとも相性が良いのだとか。
一般的な陶器と組み合わせて、土器は現代の生活にも便利に使えるうつわなのです。
教室では体験だけでなくお二人の作品を買うことも可能。飲食店から注文が入ることもあるそう(手前のティッシュケースも土器!)
ところで、「陶器」の陶芸教室はよく見かけますが、なぜ「土器」なのでしょうか。
「大学で陶磁を学んでいた頃は、土器は日常生活で使い物にならないというか、『陶器を作る途中段階の物』という印象で全然興味がなくって。だけど卒業後に土器でお料理を出すお店に出会って、印象が一変したんです。土器の性質のおかげでまろやかになったお料理がとても美味しくて、どんどん土器に引きこまれていきました」(西山さん)
「私は卒業後に福島県で地域おこしをしていました。ふと陶芸が恋しくなって、土器ならその辺でも野焼き(掘った穴に藁などを敷いて作品を置き、また藁を被せて焼成)で作れたので、自分で作り始めていました」(我妻さん)
なるほど。卒業後にそれぞれ別の地で土器に惹かれていたなんて、うれしい偶然ですね。気になる再会のきっかけは「よく聞かれるのですが、あまり覚えていなくて...」とのことでした。
黄色のオーニングは元々あったもの。目を引くカラーは土器の色合いにもマッチ
そうしてお二人は土器教室を開くべく、物件探しを開始。物件の条件はこちらでした。
・1階であること(重さ300kgの焼き窯を搬入できるように)
・土砕き部屋を作れる広さ(土埃が舞うので空間を分けたい)
焼き窯の重量にも驚きますが、気になるのは「土砕き部屋」というワード。そういった部屋は、陶芸教室に普通あるものなのでしょうか。
「ほとんどの陶芸教室では買った粘土を使うので、土砕き部屋がある教室は多分他に無いと思います。でも私たちの教室では、自分の手で砕いた土を使うのがとても重要で。『うつわって、普通の土からできているんだ!』ということから体感してもらいたい。だから、どうしても土砕き部屋が欲しかったんです」(西山さん)
こちらが念願の土砕き部屋。木箱には、お二人が採取してきた「普通の土」が入っており、それを生徒がハンマーで砕いて粘土にします
しかし、土砕き部屋を設けられるほどの広さがある1階の店舗物件は賃料も高く、「土砕き部屋は諦めなければならないかな..」と感じ始めていました。
そうして東京R不動産でついに出会ったのが上の物件。広さは33㎡と十分で1階路面店ながら、賃料はこの地域の相場の8割ほどと、割安の価格帯でした。
割安賃料の背景は、この建物が、東京R不動産が取り組む「ニューニュータウンプロジェクト」の舞台になっている、荒川区西尾久の商店街にあったこと。
「ニューニュータウンプロジェクト」とは、「さびれてしまった小さな商店街でも、『いいお店』が同時多発的に増えたらそのエリアが面白くなるのでは」という目論見のもと始めた、「そのまちの店舗物件の賃料を下げて、ユニークなコンセプトを持つ小さなお店が出店しやすいようにしよう」という実験的な取り組みです。
(この動きは荒川区の耳にも入り、今では東京R不動産と行政が一緒に活動をすることもあります)
お二人は、「この広さでこの賃料!?ここなら土砕き部屋もつくれる!」と、内見をしたその日に申し込みました。
内見時の様子。以前入っていた店の荷物が溢れていました
さて、入居が決まると次は改装です。
前の入居者の残置物が撤去されると、大量の物で隠れていた「ステージのような謎の台」や「窓を遮る謎の壁」が備え付けられていることが分かり、それらを取り壊すことから始まりました。
「大家さんと東京R不動産には、『外観がガラッと変わらなければ、お好きにどうぞ』と言ってもらって。バールや手を使ってひたすら壊しました。楽しかったですね〜」(我妻さん)
こちらが、大家さんに「これを置くの?」と驚かれたという、土器を焼く窯。電気窯なので煙が出ないのだそう。「大きなオーブンみたいなものですね」
とにかく大変だったのは電気系の工事。電気屋さんに分電盤を移動してもらったり、大きな電力を使う窯のために電線を引いてきたりと、分からないことだらけの中でなんとか終えることができました。
自分達で採ってきた土や漆喰を、ここで練り合わせながら壁や天井に塗っていきました。コテが使いづらかった天井はゴム手袋で塗られ、独特な風合いに
完成した教室にお伺いして印象的だったのは、空間に漂うこの「土のぬくもり」。それは全面に並んだ土器作品だけでなく、壁や天井に土が塗られていることも大きいと感じました。
お二人「内装デザイナーさんに土壁を提案してもらった時、実は『そこまでやらなくても』と思ったんです。それよりも、早く教室をオープンさせたくて(笑)。でも、土に囲まれるとやっぱり落ち着くし、土の子らしい空間になりました。言うことを聞いて本当によかったなと思っています」
土壁の裏側はこうなっているのですね!「木摺り(きずり)」と呼ばれる木枠に土が塗られていました
土壁の風合いが、同じく土で作られたユニークな土器作品を引き立てます。別材質の壁だと印象は違ったはず
また、土壁は湿気を吸ってくれるので、エアコンを入れなくても少しひんやりするというメリットもあるのだとか。土壁は再利用ができるので、ゆくゆくは土を外して、再度塗り直すワークショップもやってみたいと考えているそうですよ。
教室の向かいの銭湯は、まちで愛される「梅の湯」。一番風呂を求めて開店を「出待ち」している人々も、土器教室を覗きにくるそう
この土器教室を開くにあたり、「西尾久」という新しい土地に根を降ろしたお二人。商店街への出店は、近隣との関係性などに身構えてしまう人もいるのではないでしょうか。
「初めて西尾久に来た時、東京R不動産の方に西尾久をじっくり案内してもらいました。非日常な下町感が広がっていて、商店街は古くありつつも活気があり、プチ旅行の気分でしたね」(西山さん)
「私も特に不安はなく、ただ楽しみだな〜って。尾久の雑貨屋さんに土器を並べる棚をお願いしたり、焼き鳥屋さんに串入れの土器を注文してもらったりと、地域のみなさんに面倒を見ていただいています」(我妻さん)
と、「土の子」はすっかり西尾久の商店街に溶け込んでいる様子。「土器を土から作る」というユニークな焼き物教室には、家族連れや会社員の方など、さまざまなお客さんが来ているそうです。
「土の子」の看板。教室名・空間・ロゴなど、随所に土への想いが表れています
西尾久のこの商店街では、東京R不動産がこの物件を含む複数の路面店物件を借り上げ、おぐセンター(食堂 / まちのリビング)を運営したり、手の届きやすい家賃で新しい人たちに貸して街の変化を生み出していく「ニューニュータウン」プロジェクトを展開しています。ここでもどうやら、街を面白くしていく拠点が生まれたようです。
みなさんもぜひ、土を砕くところから土器を作れる「土の子」に遊びに行ってみてください。穏やかな西尾久の商店街の雰囲気も、きっと楽しんでいただけますよ。
●お店情報
店名:土の子
Instagram:@tuchinoco_doki
住所:東京都荒川区西尾区4丁目12-34 コーポ庄子102
開店:2022年10月
広さ:33㎡
Before「銭湯前で始めよう!」: 前テナントの残置物や、特設ステージ・窓を遮る壁などが残る空間
After「土の子」: 壁を撤去したことで光が差し込み、隣の銭湯の利用者も覗きに訪れる土器教室
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