第12話 銭湯カルチャー
「浅草」にはまだ銭湯が多く残っている。
自宅にお風呂があるのが当たり前になった時代に、なぜまだ銭湯が残っているのか気になったので、銭湯に行ってみた。今回は、「浅草」に残るそんな「銭湯カルチャー」のご紹介。
僕は銭湯をはしごする「銭湯ツアー」をしてみた。
「なんでツアー?」と思うかもしれないが、それにはちゃんと理由がある。まず、開店時間が違う銭湯にそれぞれどんな人が来ているのか知りたかった。
それに同じ日なら、まさか僕みたいに銭湯をはしごする人はいないだろうから、違う銭湯に同じ人がいることなんてない。という理由からだった。

建物がツタで看板が見えなく、なんの建物かわからなかった。
そんなわけで、まず最初に行ったのは「花やしき」の裏にある「浅草観音温泉」。
ここは他の銭湯とはちょっと違う。温泉を引いていて、朝早くから営業している。朝早く行くと、近くの店の旦那衆が店の開店前にひと風呂入りに来るらしい。

言葉で表現しがたい異空間だった。
僕は少し落ち着いた時間帯に行ったのだが、空いているのと建物内の感じが印象的だった。
ピカピカの床と、所々時代を感じる劣化、日本語と英語がごちゃついたアテンド。

新しさが見当たらない、古いつくり。
まるで時間が止まったかのような古い建物。今まで味わったことがない異空間がそこには広がっていて、湯に入る前にかなりはしゃいでしまう。
わくわくしながら服を脱いで大浴場へ入る。客はおじいちゃんと若い学生だけで、ほぼ貸し切り状態だった。
天井が高い大浴場。タイルでつくられたちょっとエッチなモザイク画のある壁は、女湯との境界線。向こうから聞こえる声は、明らかにおばあちゃんの声。

お湯と水がそれぞれ出る洗い場。当然シャワーもない。
壁にそって並んだ洗い場にはシャワーがなく、あるのは熱いお湯と冷たい水がそれぞれ出る蛇口。流量調節栓じゃない。お湯と水を同時に出して調節しないと、ちょうどいい温度で使えない。
至る所に昭和の匂いを感じ、湯につかる。ここだけは今も変わらない温泉だ。海外からの観光客も多く来るこの温泉、入浴料は高いが、空いている時間帯は至福の時だ。

浅草5丁目あたりの「鶴の湯」
次に行ったのは、浅草のはずれにある「鶴の湯」。「浅草観音温泉」とは違う、趣のある建物をしている。

レトロな看板。
この銭湯はいろんな種類の湯があるらしい。うれしいつくりの銭湯は、僕がここに着いた頃がちょうど営業しはじめの時間だった。
古い佇まいの入り口を入ると、ちょっと現代的な受付カウンター。若めのご主人だが、机に並べられた100円玉と10円玉の釣り銭が昭和な匂いを残している。
上を見上げると、中も古い日本の銭湯な感じをしている。大浴場は現代的なつくりをしていて、清潔感がある。
まあ普通の銭湯な感じだが、ここはお客さんがおもしろい。背中に入れ墨が彫られたあっち系の人、あっち系の人の舎弟らしき人、肌が異様に黒いおじいちゃん達、ここには似合わない白人などなど。
僕は大浴場全体を見渡せる湯につかりながら観察してみることにした。
まず、脱衣所から入ってきた入れ墨のあっち系の人はとりあえず、桶と腰掛けを持って洗い場へ。しかし体は洗わずに席を取っておくように陣取り、掛け湯をして湯船につかる。
なじみの銭湯仲間と会話をしながら銭湯を楽しんでいて、さすがに熱くなると次は水風呂にざぶんと浸かる。熱くなった体をクールダウンし、種類の違う湯へ。
いくつかの湯の後に、洗い場に行って頭→洗顔→ひげ剃り→身体とスムーズに用を終えていく。手慣れたものだ。シャイニングロードがあるかのように、順序よくすべての行程を終わらせ、再び湯に浸かり、次々と種類が違う湯を制覇していった。
舎弟らしき人はそれに付いていくようにしていたが、何度か脱衣所に戻って給水していた。
外国人はどうも銭湯の仕組みがいまいちわからず戸惑っていた。見よう見まねで身体を洗い、ようやく湯船に向かったが、外人が入ろうとしていたのは運が悪いことに「電気風呂」。

「鶴の湯」ではないが、こんな感じの風呂。
まさか日本の風呂がぴりぴりするとは思っていなかった外人は、案の定びっくりしていた。
カルチャーショックを受けた彼は、そのまま大浴場から出て行ってしまった。彼はここで身体を洗っただけだった。
そんな外国人の横では、地元のおじいちゃんが長風呂を楽しんでいた。たわいもない会話と、ちょっとした会議を一通りすませ、「じゃあお先に」と出て行くおじいちゃん。
とまあ見ているだけで僕は楽しくて、若干のぼせてしまった。

浅草3丁目の「曙湯」
最後に行ったのは言問通りに近い「曙湯」。
ここは「鶴の湯」のような古い建物のつくりと、もさもさした植物が特徴的だ。

昔のつくりをした建物内。
ここはまさに昔ながらの日本の銭湯だ。
番台にはおばあちゃんがいて、なじみの客と会話を楽しんでいる。
大浴場に入ると、湯船は2種類しかない。しかもそれはすごく熱い湯と熱い湯。温度は完全に江戸っ子仕様だった。
お客さんは「鶴の湯」のように色々な人がいたが、ここはもっと地元色が強かった。しかもみんな適度に湯に浸かったらさっさと出て行く。長居はしない。
僕もここは少しゆっくりして銭湯を出た。
帰り道、かき氷目当てで「おかず横丁」に寄った。「さすがに3軒の銭湯をはしごするのは疲れる。これはあまりおすすめできない」、と思いながらかき氷を食べていたが、たまに入る銭湯はいいものなのは間違いない。
普段は自宅のシャワーでさっぱりするが、たまの休日に銭湯に行く。ゆっくりと湯に浸かりながら1週間の疲れをリセットし、ビールを一杯飲んで帰る。日頃のちょっとした贅沢に、銭湯に行くのも悪くない。
そんな「銭湯カルチャー」はいかがでしょうか?

浅草エリアの時代がやってくるのではないか?!それが私たちの仮説です。日本橋エリアを見つけた時の感覚と同じものを、東京のさらに東側の浅草エリアに感じました。昭和の懐かしさと近未来が混在したシュールな風景がおもしろいこの街で、物件を探し始めます。
浅草を探索する理由とは?
馬場正尊による関連コラム
「気になっている浅草エリアを、自転車ツアーで探索してみる。」

三箇山、松尾、伊藤、黒田(山形R 不動産リミテッド)
東京R 不動産の東チームとして日本橋エリアの物件を開拓するメンバーと、1 ヵ月の限定の特別参加の山形R 不動産リミテッドからの学生インターン。