第9話 モーニング・カルチャー

浅草にある喫茶店「珈琲ロッジ赤石」
「モーニング」という習慣をご存知だろうか? すぐわかる人は、おそらく人生の半分を昭和に生きた人なはず。
「モーニング」とは、「喫茶店」で朝だけ出る、トーストとサラダ、コーヒーの軽い食事のこと(昭和の人には説明不要かもしれないが)。決してカフェではない。テイクアウトでも、通勤途中のサラリーマンが急いで食べて、出て行くものでもない。

店先に置かれたモーニングのメニュー。
そんな「モーニング」。浅草周辺の喫茶店では、ことさら「モーニング」が強調されている店がなぜか多い。
気になった僕は、実際に浅草の喫茶店で「モーニング」を味わってみた。その時のことを、今回はご紹介しよう。

何とも趣のある店内。
とある月曜日の朝、浅草の喫茶店。僕は店に入り、店内を見渡す。どうやらお客さんはみんな近所の人のようだ。
散歩途中のおじさんやエプロンをまいたおばちゃん、幼稚園に子供を送ってきたお母さんグループなど・・・。その店に入った僕は、完全に浮いていた。
このアウェーの雰囲気の中、店内を見渡せる席に座った僕は、店のお客さんをちょっと観察してみることにした。
僕のすぐ後に入ってきたおじさんは、喫茶店のマスター(のようなおじさん)やウェイトレス(のようなおばさん)に「おはよ」と挨拶し、指定席のようなカウンターの一番奥の端っこに座った。おもむろに天気の話からマスターと話し始め、ディープな地元トークに移行していった。
僕よりも先にテーブル席に座っていたお母さんグループは、どうやら子供のケンカ話をしていた。でもたまに旦那のグチもカットインしてきたり、話がいろんなところに飛んでいた。その着地点が見えない女の人の会話は、家からの電話であっけなく終わり、そのお母さん達はすごいさっぱりした顔で帰っていった。
また、違うおじさんは広いテーブル席に座った。なんでテーブル席かと疑問に思っていたら、しばらくしてまたおじさんが店に入ってきた。席を探していたら、先に来ていたテーブル席のおじさんを見つけて、挨拶しながらその人の向かいに座った。
そんな感じでいたら、いつの間にかテーブル席は次々と来たおじさん達によって埋め尽くされた。会話も軽い話から町内会や青年部の重たい話になっていった。でも、終わり方は「じゃあ、これで決まりね」「うん、いいんじゃない」とすごいあっさりだった。
他にも、出勤前の女の人がいた。大人な雰囲気のその人は、店員に「いつもの」と言い、タバコをふかしはじめた。出てきた「いつものコーヒー」を飲んだらすぐに出て行った。帰り際の「ごちそうさま」の笑顔がちょっとかわいくて、そのツンデレっぽさがいいなと思った。
とまあ、いろんな人がいたのだが、朝から喫茶店に来るみんなの「モーニング・カルチャー」に共通することがあった。
それは、「人と会い、会話すること」。
喫茶店のマスターや、常連仲間、同じ年頃の子供をもつお母さん友達。それぞれ喫茶店にいる誰かに会いにいき、朝からしっかり「トーストセット」を食べるように、しっかりコミュニケーションをとる。朝から人に会って、新鮮な街の情報や自分の知らない人のことを話す。
単に道ですれ違い様に軽く挨拶をするのではなく、朝からちゃんと人に会って、ゆっくり食べたり飲んだりしながら楽しく会話する。
「モーニング・カルチャー」とは、より効率的で深いコミュニケーションを取るための文化のようだ。

しっかりめの「ハムエッグとトーストとコーヒー」のモーニング。
しかも、朝からおいしいトーストとサラダに暖かいコーヒーを頂くのは、すごくいい。健康的だし、何より周りのお客さんがつくるあったかい下町の雰囲気を味わっているだけで幸せだった。
「モーニング・カルチャー」を味わった次の日、朝から忙しかったからか、昨日の「モーニング」が恋しくなった。
こりゃあ、一風変わった「モーニング・カルチャー」に、僕は完全にはまってしまったようだ。

浅草エリアの時代がやってくるのではないか?!それが私たちの仮説です。日本橋エリアを見つけた時の感覚と同じものを、東京のさらに東側の浅草エリアに感じました。昭和の懐かしさと近未来が混在したシュールな風景がおもしろいこの街で、物件を探し始めます。
浅草を探索する理由とは?
馬場正尊による関連コラム
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三箇山、松尾、伊藤、黒田(山形R 不動産リミテッド)
東京R 不動産の東チームとして日本橋エリアの物件を開拓するメンバーと、1 ヵ月の限定の特別参加の山形R 不動産リミテッドからの学生インターン。