2009.1.20
09|賃貸物件のつくり方:2~賃貸マンションの「アリ」と「ナシ」
賃貸住宅の企画や設計をいざはじめてみると、迷うことは山ほどでてくるものです。ターゲット、部屋の広さ・数、建築の全体構成・構造、賃料想定…。そして全体の話がだいたい決まってきたな~と思ってからも、まだまだ出てきます。
ここでは"部屋の中をどうするか"つまり間取りや設備、内装について「おもしろそうだけど、だいじょうぶかな?」「建築家に提案されたけど、なんだか不安…」と言われがちなコトについて、僕らが勝手に「アリかナシか」を宣言させていただこう、という偉そうな企画です。
なおここでのお話は賃貸集合住宅を「新築」またはきちんとお金をかけてリノベーションをする場合を前提にしています。「古い物件だし、ものすごく安く貸すなら、まあいいんじゃない?」という話になると、ある意味で何でもアリになってきますから。
というわけで早速、行きます。
Q1.ガラス張り風呂ってどうなの? 【答え:△】
デザイナーによるオシャレ(っぽい)物件でよく見るガラス張りのバスルーム。これは、1人暮らしのワンルームなどでは、場合によってはアリです。そもそも普段は人に見られることもないわけですし、居間とつながったバスルームに腰上のガラス窓から光が入るのは気持ちよいものです。また居間にいるときに部屋が広く見えるメリットも、あります。しかし2人以上で暮らす可能性のある部屋で、居間に対して大きなガラスで開いたバスルームは、×です。東京R不動産のお客さんは心が広いので「中にカーテン入れるし、僕はOKですよ」という人は確かにいるのですが、「ガラス張りだからイイ」という話はまずありません。むしろデザイナーがここでしかデザインの見せ場がなかったんだろうなと思ってしまうこともあります。実際これはコストがかかるため、基本的にはデザインとしてのコストパフォーマンスはあまり高くはないと言えます。
Q2.和室・畳ってアリなの? 【答え~○】
僕は旅館が嫌いという人に滅多に出会いませんし、座敷の日本料理屋も未だ健在です。「日本人だもん、たまには旅館に行きたいよ。でも家はフローリングだよね」というのが賃貸層の多数派であることは重々承知しているものの、今できる賃貸物件に和室はほぼ全くないのです。一般的に和室物件は貧乏物件のイメージを持たれているようですが、それは「和室だからダメ」なのか、「古いイメージだからダメ」なのか、「和室物件には古くて湿っぽい物件が多い気がするからダメ」なのか。よ~く、考えてみましょう。きれいでおしゃれな和室物件は、人気出ます。それは東京R不動産だけのお話ではないはずです。ハンディがある物件での特徴付けに、ぜひ考えてみてください。どうせこう言っても増えすぎることにはならないでしょうから、あえて言います。和室は大アリです。
Q3.「収納なし」でもいいの? 【答え~×】
収納がない物件、あっても極少な物件…これはほぼ絶対的にネガティブです。賃貸の現場では、これは本当に痛いことなのです。土地や法規等の事情からどうしても部屋が小さくなるような場合、部屋をできるだけ広くとって入居者が自由に・・という気持ちもつい出ますが、収納がないことによる賃貸募集上のロスは、甚大です。設計を相当に練った上で、最低限の収納で空間価値とのバランスを最適化している例はたまにありますが、収納のない物件を平気で設計する人は、少なくとも賃貸物件の設計には向かないとすら言えると思います。カーテンで仕切るだけの収納なども、"賃貸商品"としては受けは悪いものです。
Q4.可動収納ってどう? 【答え~△】
これはやり方次第です。小さな部屋でも複数の住み方を受容するための上手い工夫になることも、あります。簡単に持ち運びできるサイズのものを色々な配置・組合せで使えるようなものもおもしろいでしょう。一方で、収納の収まりを設計上きちんと想定できず、可動収納をとりあえず置いてごまかしているようなケースは、当然嫌われます。単に可動であることをあえて好むという人は、まあ少数派ですね。場合によっては見事な解決手段になることも、あります。
Q5.らせん階段は? 【答え~△】
少なくとも「らせん階段のあるメゾネットは女性に人気が出るのでは?」といった単純な期待はまずしない方がよいです。確かにぱっと見はいい感じに見えるのですが、それが決め手になるほど甘くはありません。しかし、らせん階段は確かに占有する面積も小さいですし、空間的なバランスや吹抜けとの関係などによってはもちろんアリです。
Q6.バスタブなし、ってアリ? 【答え~○】
バスタブがない方がいいという意味ではもちろんありません。これはまあ正確には△(場合による)なのでしょうが、ここで○としているのは「無理やり極小のバスタブをつけて、ただでさえ激狭な部屋を狭めている」ようなものがとても多いので、ならばむしろシャワーブースにして収納や居室に面積を使った方がいいという場合もありますよ、という意味です。逆に、賃料が高いのにバスタブがない物件は、×です。
Q7.丸見えのトイレって… 【答え~×】
トイレのドアがガラスで丸見えというやつです。さらにはトイレの扉がない恐るべき物件も存在するようですが、さすがに意味ないですよね。もしかするとこれは「トイレは閉じている必要があるだろうか?」といった問題提起なのかわかりませんが、開けたい人は開けてすればいいじゃん、と思うわけです。どんなにエッジな物件でも、丸見えのトイレのせいでほとんどの成約がフイになる現実を想像すれば、こんなコワいことはとてもできません。
今回は、△がけっこう多くなってしまいました。こうしたことは実際には多くの視点から考え判断しなければならないものであるため、絶対というのはなかなか言えません。ただしここでも「いい感じ」に見せることよりも「いい」ものをつくるというスタンスがやはり基本にあるべきです。そしてデザイナーの意図や総合的な判断と、創造的なマーケティングは最後は一致すべきものです。
なおデザイナーズ調(打ち放し風)壁紙だけは絶対ナシということでくれぐれもよろしくお願いします。
世の中にもっと魅力的な物件を増やしたい。不動産を持つ人・つくる人が、住む人・使う人と一緒に幸せになるにはどうしたらいいだろう?そんなことを考えつつ、感性とアイディアにあふれるお客さまたちから日々ヒントを得ながら不動産事業や投資・経済のことを考えてみる。
「東京R不動産」を共同運営する不動産企画会社SPEACのメンバーがおくる、心あるオーナーさんのための、ビジネス目線のコラムシリーズ。
林 厚見(東京R不動産/SPEAC inc.)