2009.2.3
10|あぁ悩ましき空室問題
賃貸物件オーナーが聞きたくない言葉…クレーム、故障、騒音、退去、そして"空室"。考えただけでイヤ~な気分になります。我々不動産屋としては「おっ!空室ですか!お任せください!」とテンションを上げるべきところなのでしょうが、重いオーナーの表情にプレッシャーを感じることもしばしばあります。さて今回は「空室」がテーマ。それも「どんどん増える空室」問題。実に悩ましい。。
が、悩んでいるヒマはありません。整理して進めましょう。空室連発、長期空室の問題というのは、
【営業】に問題があるか。
【値段】に問題があるか。
【モノ】に問題があるか。
このどれか、あるいは組み合わせと考えられます。
まず【営業】の問題というのは「伝わるべき情報が伝わるべきヒトに伝わっているか」ということです。頼んでいる不動産屋はちゃんと情報を流しているでしょうか。業者がそもそもやる気がない場合、業者を変えると簡単に解決する場合があります。ある種の特徴がある物件はそれに見合う告知チャネル(たとえば東京R不動産とか)を使うことでパッと解決することも、ありえます。もちろんそれで解決しない場合も多いわけで、その場合は他に問題があるということになってきます。
【値段】の問題というのは「対象顧客が検討する他物件に負けない条件になっているか」ということ。立地条件のいい物件であっても、ツボの範囲を超えていると誰も決めてくれません。他の選択肢に比べて条件が劣っていたら、決めるわけがないのです。高すぎる設定をすると不動産屋もこっそり「紹介しないリスト」に入れてしまう場合が、結構あります。
そして【モノ】の問題とは、言いかえれば「商品としてのバランスを崩す物理的な問題がないか」ということです。バランスというのはたとえば「この場所でこのサイズなら住むのはかなりオトナ。この水周り設備は絶対ダメ」「ここはどうせ男子学生向きだから多少古く見えてもいい、でも収納がないのはマズい」といったようなことであり、単に「キレイに全部リフォームしないとダメですよね…」「いまどきオートロックじゃないのはダメなんだ!あぁ!」等と安易に考えないことも重要です。
「あのね、どこが問題かわかれば苦労しないんだよ!」…おっしゃる通りです。一般的に、内装屋さんに聞くと大抵「モノ」だと言うし、不動産屋さんに聞くと「値段」と言うことも多いです。でも実際、問題は複合的なもので、どこを解くのが一番意味があるかを見極めるのは簡単ではありません。まあともかく、動きましょう。
【ステップ1】
まずは意見を聞きましょう。不動産屋(数社)の意見、今住んでいる人の意見、内見して静かに去っていきそうなお客さん、等々。曰く「セキュリティが問題ですねぇ」とか「共用部をリフォームすればだいぶよくなるはず」「値段ですよ値段。賃料が1割高い」はたまた「事務所可にすればOKだよ」等。色々な意見が出てくるはずです。
【ステップ2】
ひとしきり出したところで、次の作業「ストーリーづくり」に進みます。
・今まで想定していた顧客にとって問題は何か?
・その顧客はこのエリアに本当にいるか?来ているか?
・YESなら、その顧客にとって他により良い選択肢が結構あるのでは?
・何をすれば解決できる?どのくらいコストがかかる?
といったことをひとしきり考えてみます。大抵の場合、想定自体が無理があったり
明確でないことが多いものです。再び立ち戻ってみましょう。
・この場所と物件にそもそも相性のいい顧客は誰なのか?
・その属性や予算、グッとくるポイント、重要でないもの、最低限必要なものは?
・ならば打ち手は?それによってその顧客にとっての他の選択肢に勝てる?
背伸びをせずに少しコストの低い解決イメージも、ふくらませてみましょう。もちろん、一つのストーリーに収斂させるのは簡単ではありませんが、これも意見を聞くことである程度検証していくことができます。
【ステップ3】
ある程度イメージができたら「投資対効果の検証」です。
打ち手としては大きく4種類。
シナリオ1:営業戦略。値段を変えず気合の入った不動産屋に頼む、事務所用途も許可、等。
シナリオ2:価格戦略。単に値段を下げる、あるいは礼金をなくす、等。
シナリオ3:いわゆるバリューアップ。例えば水周りの改善に投資する等。
シナリオ4:REPOSITION。思い切って間取りやデザインをガラリと物件の「格」や「キャラ、位置付け」を変えてしまう。
もちろんこれらの組み合わせもあります。1はまずやってみるのみですが、2~4に関しては、ある程度シミュレーションしてみることができます。
例えば今の家賃が16万円、これが若干高すぎて4か月くらいラッキーを待たねばならないことがわかり、一方1.5万円下げれば今すぐ決まるイメージが持てるとしましょう。平均3年間の居住を想定すると1.5万*36ヶ月=54万円の収入差になります。もし16万のまま4ヶ月空くと、16万*4=64万のロスですから、この場合は1.5万円下げた方がよいということになります。また同じ例で礼金2か月をゼロにすれば32万円マイナスになる一方、それですぐ決まるならゼロにすべしということも言えます。ただし物件によっては「多少下げても変わらない」こともありますし、「そもそもモノに重大な問題がある」「設備をちょっと変えれば家賃をむしろ上げてもすぐ決まる」という場合すらあります。
そこでシナリオ3&4の場合。これも考え方は同じです。100万円かけて、これが仮に10年にわたって意味があると仮定すると、1年あたり10万円、3年あたり30万円。これによって空室4か月が1か月になると見込めるならば、16万*3か月=48万円のロスより安いと言えます。あるいはこの改修で家賃が1万円上がるとすれば、1年に12万円ですから、投資する意味があると言えます。では、工事屋さんに「思い切って300万円かけるべきだよ!」と言われた場合は?それで家賃が3万円上がるのか否か。そういう話になってきます。
ふぅ、さすがにちょっと理屈っぽすぎました。「家賃が上がるとか、どのくらい早く入居が決まるとか、その判断が難しいんじゃん!!」という感じでしょうか?確かに、ある程度経験と感覚値がない限り、正しい打ち手は最終的には誰かの意見に頼ることになるでしょう。
でも、考え方をある程度理解していれば、いろんな意見にいちいち動じることなく、正しい意見を見極めることもできるはずです。ともかく大事なのはその場所と物件に合ったストーリーとバランスを見つけること。そしてその根幹にあるのは、どんな人が、どんな風に「この物件に入居しよう」という判断に至るのか、競合する物件やニーズのツボをイメージできていることに尽きるのです。そのイメージが手に取るように見えてくれば、「私(の物件)がちょっと化粧したり、振る舞いを少し変えただけで、アイツはすぐに好きになる」という早道が、見事なまでに見通せてしまうのです。本来自分に合うはずの相手と「その人を振り向かせる」ために効き目のある努力の見極め。そう、空室問題の本質は恋愛と同じなのです!?
世の中にもっと魅力的な物件を増やしたい。不動産を持つ人・つくる人が、住む人・使う人と一緒に幸せになるにはどうしたらいいだろう?そんなことを考えつつ、感性とアイディアにあふれるお客さまたちから日々ヒントを得ながら不動産事業や投資・経済のことを考えてみる。
「東京R不動産」を共同運営する不動産企画会社SPEACのメンバーがおくる、心あるオーナーさんのための、ビジネス目線のコラムシリーズ。
林 厚見(東京R不動産/SPEAC inc.)