2008.11.16
04|賃貸物件のつくり方:1~どう始める?
今回は、賃貸物件の開発を行う際の「始め方」についてお話したいと思います。
賃貸物件の開発は、事業主にとっては大事な資産活用、投資事業。一度建てればそこで数十年にわたって人の生活が営まれると同時に、それは街の風景をつくってゆくことになります。そこではちょっとした判断の積み重ねが事業の命運を左右してゆきます。不動産は一つ一つが違う"素材"。難しいのは「この場所に何が望まれているのか」がわかりにくいことです。ちょっと贅沢をしたりシャレたデザインをしようとすると、建築費もすぐに上がります。とにもかくにも、その場所にとって最高のシナリオやバランスを見出し、形にしなければなりません。そしてもちろん、想像力やアイディアで他とは違う魅力をつけながらきちんと成果に結びつけることこそ、不動産事業の醍醐味というものです。
事業主として巻き込むべきパートナーは誰か。それは不動産屋と設計者、つまり"顧客を知る人"と、"形をつくり出す人"です。まずはこの2つの選択がその後の運命の大半を決めることになります(個人地主さんの場合、その前に良き税理士も大事ですね)。もちろんこれは「お任せパック」で工事や一括借上まで全てをやってくれるアパート会社に頼むのでなく、一定の意思をもってその場所に合った物件をつくる場合のお話です。
物件の企画においては、賃貸ニーズ、空間的なアイディア、法規、資金計画といった様々な事柄について、"同時に"検討・議論してゆきます。デザインの検討と事業性の検討(マーケティング)が別々に行われると"絶対に"良い結果は生まれません。賃貸物件の開発は「商品企画」ですから、電気製品や洋服と同じく、美しくなければならないと同時に、美しいだけでもダメなのです。だからこそ、事業全体の一貫したストーリーを描ける体制が必要になります。モノとニーズの双方のプロが互いの知見と経験をぶつけあいながら進めなければ、マズいことになるのです。
僕らが開発事業の企画やマネジメントの仕事をするとき、通常以下のようなステップをふみます。
【目的整理と事業形態の検討】
そもそも建てるべき?貸すべき売るべき?お金を借りるべき?といったことを、経済的側面やオーナーの諸事情をふまえて検討します。ここではラフなシミュレーションも行います。
【場所の読み】
次に、その土地では一体何をつくるべきなのか、何が望まれているのか。住宅?オフィス?それとも・・。どんな人が住むのか、働くのか。その場所にある本質的な可能性や潜在価値のヒントを見出す作業です。
【相場把握と建築ラフプラン】
一定の企画イメージをもとに、賃料相場などの市場調査をします。そして容積率や日影規制といった法規的制約をチェックしながら、どんな建物が建てられるかをスタディします。そのとき、どんな"逆転アイディア"があり得るか、敷地独特のツボがあり得るか、同時に知恵を絞ります。
【シナリオ立案】
現実的にありえるストーリーと戦略を整理します。各案での収益の見込みを立てつつ、ベストシナリオを特定していきます。ここでは資金調達の仕方、デザインの体制、賃貸集客の方法、そして入居者のイメージや物件独自の訴求価値など、事業全体の一貫したシナリオをまとめていきます。こうして事業の枠組みが整理できたら、銀行との一次交渉や、場合によっては工事費の概算などを行います。
【デザイン&ディテール】
プロジェクトの現実性と方向性が見えてきたら事業化を決定、そこから設計者や不動産屋がチームを組んでプロジェクトが正式にスタートします。間取りや仕様、デザインなどについてアイディアをひねり、一方でマーケティング視点での検証をし、・・・というプロセスを繰り返しながら企画、設計が進んでいきます。
僕らはまず土地を見て、周りを歩き回り、隣のビルの屋上に登り、近所の喫茶店で人の会話を観察し、不動産屋さんで話を聞き、そして、ぐぐっ!!とイメージすることで、「何をつくるか」「どんな人が住む/働くか」の大枠のイメージはある程度見えてきます。しかし、その後に何度もイメージを練りこんでゆく中で、一つのアイディアが全てをひっくり返してしまうことも、あります。答えは一つではないのです。 to be continued...
(AH)
世の中にもっと魅力的な物件を増やしたい。不動産を持つ人・つくる人が、住む人・使う人と一緒に幸せになるにはどうしたらいいだろう?そんなことを考えつつ、感性とアイディアにあふれるお客さまたちから日々ヒントを得ながら不動産事業や投資・経済のことを考えてみる。
「東京R不動産」を共同運営する不動産企画会社SPEACのメンバーがおくる、心あるオーナーさんのための、ビジネス目線のコラムシリーズ。
林 厚見(東京R不動産/SPEAC inc.)