2009.8.10
15|賃貸とエコロジー
この10年ほどで賃貸住宅に「デザイン」という言葉やイメージが浸透してきましたが、このコラムでしつこく触れているように、デザインというのは単に見た目がカッコいいかどうかという話ではありません。多分これから少しずつ「何をどう、デザインするのか」という一歩先の話になってくるはずです。
その中でおそらく大事になるのが「気持ちいい」かどうか。それは「質感」「眺望」「暑さ寒さ」も当然含まれますし、あるいは自然、植物(グリーン)といったものとの関わり方のようなことも今まで以上に価値を持っていくでしょう。それらは広い意味で「環境」の話にもつながってきます。
ところで世の中で言われる環境の話は「地球環境」の保全等のいわゆるエコ論が中心ですが、住宅やオフィス等に関しては「室内環境・居住環境(温度、湿度、日当り…)」つまり空間の気持ちよさの向上という話もあります。ソーラー発電などの「省エネ」論は前者のエコ論につながる話ですが、実際には「コスト削減」の話とセットになります。後者はむしろ「自分がもっと気持ちよくなりたい」という話ですが、その時に「やるならエコ的に、良いやり方をしようよ」という話が前提になります。
これらをドライに捉えると、やはり「自分に都合よく」かつそれが「エコ的にいいね」ということにならないと話はなかなか前に進まないでしょう。不動産の話でいえば「オーナーにとっても入居者にとっても、より利益がある状態」がイメージできないといけないということです。
いわゆるエコ論・省エネ論の話は世の中にいろんな本もあるので、ここではグリーンとの関わりについての話を。
先日チームネット代表の甲斐さんと、その初期プロジェクト“経堂の杜”にある事務所で、お話を伺いました。住宅地ながら森の中にあるようなその集合住宅の中に入ってみると、緑にきちんと囲まれた住まいというのはこんなにも気持ちよいものかと思えます。
建築的・植栽的な見地からの様々な工夫で、夏でも冷房がいらない環境、視覚的にも飽きない気持ち良さが実現されていました。元々あった5本のケヤキを残してこれを天然の空調装置として機能させていたり、屋上や壁面も、住む人が楽しめるような形で緑化され、これが断熱の役割も果たしています。外断熱や複層ガラスで快適性を高め、さらには地下ピットにためた雨水を循環させたりもしています。
「植物は生きものだから動きがあり変化がある。固定的で変化のないものは品質が安定するけれど、動きや変化のある"生きた系"には豊かさが生まれる」と甲斐さんは言います。この建物は(賃貸物件ではなく)コーポラティブハウスだからこそ実現した部分が多々ありますし、賃貸事業ではここまで贅沢な空間の使い方や濃厚な緑の取り込み方はなかなかできるものではないでしょう。が、ここには未来の方向の、一つのヒントがあると思います。
自然の要素を取り込むことは、品質の不安定性や、経済的あるいは人的な負荷が高まる面も確かにあります。ただ、それに価値を感じる人をうまく集めること、効率的なメンテの仕組み等、まだまだ改善の余地、あるいは事業化のチャンスもあると思っています。それらを含めて本質的な付加価値が生むべく、次の機会には一緒にその姿を追求しましょうという話をしました。
同じくteamnetの他の物件たち
目黒区の某所に、緑や花がたくさんある中庭を持つ分譲マンションがあります。この物件は、中古価格がなかなか落ちないマンションとして知られています。分譲会社はいかに最初に高く売るかが重要なので、そのような物件をつくる動機があまりないのかもしれませんが、ここには明らかに経済価値が生まれているといことに注目すべきです。
気持ちよさを軸に、楽しさやカッコよさとも共存し、エコ的にもよい、そういうことが次に「来る」のだと思います。僕らは賃貸住宅あるいは賃貸オフィスの世界でこうした価値を顕在化させる新たな仕組みについて考え始めています。
世の中にもっと魅力的な物件を増やしたい。不動産を持つ人・つくる人が、住む人・使う人と一緒に幸せになるにはどうしたらいいだろう?そんなことを考えつつ、感性とアイディアにあふれるお客さまたちから日々ヒントを得ながら不動産事業や投資・経済のことを考えてみる。
「東京R不動産」を共同運営する不動産企画会社SPEACのメンバーがおくる、心あるオーナーさんのための、ビジネス目線のコラムシリーズ。
林 厚見(東京R不動産/SPEAC inc.)