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2009.5.27

 
12|物件づくりの時間感覚
林 厚見(東京R不動産/SPEAC inc.)
 

しばらくご無沙汰いたしました。ビジネスレビュー再開します。

時間感覚の問題

最近オーナーさんに「景気が悪くて賃貸物件はたくさん余っているの?」とよく言われます。

「とてもうまくいっているものもあるけれど、空きが増えているものも多いです」ということになるのですが、突き詰めていくと、“時間感覚”、すなわちどの程度のタイムスパンで物事をイメージするかという問題に行き当ります。これには2つの種類の問題があります。1つは事業者や金融機関のスタンスや構造の問題、もう1つは物件づくりにおける作り手側の問題です。

昨年くらいまでの数年間、都心ではディベロッパーによって賃貸物件がかなり大量に供給されました。さすがに一気につくり過ぎでしょう、と皆わかっていながら、それでも景気が良いとついつい前途洋々な想定で、高いコストをかけてつくってしまう。これは経済システムそのものの問題であって、そもそも今のルールや常識が、持続性のある発展を目指すようには出来ていないのです。悪く言えば、皆で一時の勢いに乗るように出来ているわけです。

銀行も短期的な収益競争とある種の横並び意識の中で、上り坂では盛り上げ、そろそろ頂上かと思うと一気にハシゴを外すことをある程度はじめから織り込んでいる。そのときは全員ツラいことになり、銀行自身も損しているから被害者気分。投資市場、株式市場なんかも決して時代に合ってはおらず、人口が増え続けるわけでもないのに、会社は無理してでも大きくならないと叱られるようにできている。不自然でも無意味でもとにかく大きくなってほしいと思う立場の人が発言権を持つ、というのがルールになっているわけです。

こういうことも、今回のゴタゴタを機に見直される面は多々あるでしょうが、人の本質はそうは変わらないものですから、我々はそういう人間のサガまで含めて、世の中の流れを読み込んで動いていくしかありません。正論と現実の間でたくましくやっていこうぜというわけです。

物件づくりの時間感覚

物件をつくるときも、適切な時間感覚でストーリーをイメージすることが重要な成功の秘訣です。マラソンならば2時間なり3時間なりの中でつくるペースがあるし、結婚するなら「だって大好き!」だけでは60年仲良くしていけないかもしれない。ファッションならば逆に今カッコよくなくては意味がない、と。

賃貸物件では、数十年の物語をつくる目線で行かねばなりませんが、これもなかなか難しいのです。物件をつくるときに関わる登場人物にとって、数十年のスパンで考えることがメリットになる人は少ないからです。メーカーやディベロッパーにとっては、今「売り切る」ことやクレームがないことが大事なわけですから、かなり志高い人があるべき姿をきちんと考えるという状況をつくっておかねばなりません(昔だったらもっと脳天気にやっても大丈夫だったんですが…)。

また建築家というのは多くのオーナーが思っている以上に、一歩先のライフスタイルを想像する力を持っていることが多々ありますが、一方では20年後に向けてモノをつくるというマインドは意外と少ないのも事実です。才能ある人ほど新しい「今」のアイディアや手法に集中する部分もあるので、建築がその経済寿命を終えるまでにそこで展開されるストーリーを議論しておくことは意味があることです。

ストーリーをつくる

正しい時間感覚と同時に大事なことは「場所に即したストーリー」をイメージすることです。

例はいきなり遠くへ飛びますが…スイスの田舎にTHERME VALSという、ホテルとSPAからなる施設があります。僕がかつて訪れた場所の中でも、とても印象に残ったものの一つです。

圧倒的に不便な奥地にある温泉村(と、このホテル)はだんだん訪問者が減り、対策が必要になっていました。(この先は個人的な推測による解釈が入りますが)

ここでは再生に向けてその場所の特性を改めて考えました。不便な奥地にあること、わざわざ見に来るほどではないけれど心地よく美しい山の風景、そして、温泉。そこで「中期滞在して体を癒す場所」として、場所の特性を全てプラスに働くような位置づけにしたのです。幻想的で美しい温浴施設の空間を象徴的につくるとともに、リラクゼーションプログラムを充実。ホテルは無駄なお金はかけずに一部だけを上品に改修していました。プロモーションという意味でも秀逸です。一番の見せどころであるSPAはコンペで選ばれた世界的な建築家P.ズントーが設計し、これをまず世界のデザインフリークたちが見に来て噂を広め、村の名前が知れ渡ります。そのために、1割の部屋はズントーによる現代的なデザインに。一方、最終的なビジターはスイスのおばちゃんたちも多いので、9割の部屋はほっこり昔のまま。ソフトも、食事はシンプルで自然な2つのコースから選ぶだけ。食後はロビーで地元の若者による弦楽四重奏を聞きながらうまいコーヒーかブランデーを。さらに言えば、ちょっとこのホテルは高いなという人は、周りの宿に泊まってSPAだけ入りに来る。

ここには、共存共栄、無理のない、場所に合ったストーリーがつくられているのです。持続性と場所性をきちんと考えたコンセプトと、たくましい戦略が共存していると感じました。
そうした特異性のあるストーリーをつくれる場所、つくるべき場所はどこにでもあるものではありませんが、これから建物を建てるときには、こうしたこともじっくり意識してつくりたいものです。

このブログについて
 

世の中にもっと魅力的な物件を増やしたい。不動産を持つ人・つくる人が、住む人・使う人と一緒に幸せになるにはどうしたらいいだろう?そんなことを考えつつ、感性とアイディアにあふれるお客さまたちから日々ヒントを得ながら不動産事業や投資・経済のことを考えてみる。

「東京R不動産」を共同運営する不動産企画会社SPEACのメンバーがおくる、心あるオーナーさんのための、ビジネス目線のコラムシリーズ。


著者紹介
 

林 厚見(東京R不動産/SPEAC inc.)

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