

本棚の小屋のある暮らし
戸建と言えば家族全員分の個室。そんな当たり前は、もう過去のものかもしれない。今回は、本棚で四方を囲った“小屋”を空間の中心において、ゆるやかなパーテーションにした家の事例をご紹介。

2階部分の全ての個室を撤去し、本棚をつなげた小屋を置く。(設計: SPEAC,inc)
小さなお子さんが3人いらっしゃるKさんは、広くて立地の良い一軒家を探していた。
Kさんにとっての立地の良さとは、職場から近くて、かつ子供達の環境が大きく変わらず、奥さんの負担も増えないこと。そして、のちのち売却可能であること。
予算と広さとの兼ね合いの中で条件を整理していった結果たどり着いた答えが、中古戸建を未内装状態で購入してリノベーションすることだった。
新築の建売り戸建やリフォーム済みの中古戸建はきれいだけど、どれも画一的で自分たちのイメージする間取りが見つからない。かといって新築の注文住宅は選択肢が膨大すぎて、判断のよりどころを見つけるのに苦労しそう。本当にベストなものにできるのか不安だった。
既に建っている戸建のリノベーションであれば、広いし元々ある制限の中で目指す住まいを探っていける。
「こちらの方が、選択の場面は絞られる。おまけに、目に触れる機会の少ない建物の裏方部分を覗けるなど、プロセスをまるごと楽しめるのでは」とKさん。
今回はほぼ土地の値段で物件を購入できたので、結果的に全体的にコストを抑えることが出来た。

改装前の状態。2階は個室で区切られていた。実はこれ、トップの写真と同じアングル。壁と天井の解体が終わった所。奥行きが長く、広々とした空間が現れた。

思いがけず出現した補強材。今では子供達の遊具になっている。
購入したお家に手を入れるにあたって、Kさんがこだわった点は3つ。
・家族の気配を常に感じられる空間であること。
・子供達が楽しめる空間であること。
・本をたくさん収納できること。
設計のご相談を伺った当初から、家族みんなで過ごせる大きな寝室のイメージを話されていた。
寝るときも、それぞれが作業をするときも、集まって話をするときも、一つの大きな部屋の中で過ごす。家族との時間の中心となる空間。


(左上)書斎から見た所。小屋を介して子供達の様子が見える。 (右上)小屋の中は布団を敷いて寝る場所。ガラスの引戸を開放してぐるぐる走り回ることが出来る。 (左下)小屋に上って見下ろした所。ヒノキのカウンターを壁に沿って設置した。( toolboxでも商品化しました)(右下)小屋に上った所。鉄骨の小屋組を現しにして、腰かけられるようにした。
小さな部屋に区切られた部屋は、なんだか息苦しい。よかれと思って子供に与えた個室が、本当に子供のためになるのかもわからない。
「私自身、子供の頃に個室は与えられたけど、いつも家族のいる居間で過ごしていたんです」とKさん。
家族みんなの気配を感じられる家を目指したKさんにとって、家族全員分の個室は不必要だった。
子供達が成長する10年後は、寝る場所だけは分かれるかもしれないし、仕切りをつけているかもしれない。はたまた、別の住宅に住み替えるかもしれない。
将来のことはわからないけど、家族のつながりを大切にした空間で暮らすことは変わらない。
物件選びから目指した空間まで、目指す住まい方への一貫している思いが汲み取れたので、あとはKさんのこだわりとイメージされた空間を、素直に形にしていった。
・本棚で囲われた小屋を作って、開閉できる寝床とする。
・それを、どこからでもアクセスしやすいよう部屋の真ん中に配置する。
・はしごをかけて、小屋の上を遊び場にする。
・小屋の周りの窓辺には、子供の勉強スペースと書斎と家事スペースを配置する。
このような操作で、子供達が走り回り、会話の絶えない空間を目指した。

子供達は、友達が遊びにきたら真っ先にこの部屋に案内してくれるそう。
ハウスメーカーの戸建をここまで大幅に変えてしまう例は、今回が初めてのケースだった。
解体を進めてゆくと、必要最小限の鉄骨部材で無駄なく構成されたすがすがしい空間があらわれた。
当初の間取りこそ個室に分かれた画一的なものだったが、解体が完了してみるとその広さと明るさに驚く。
思いがけない所に補強材が入っていたりするが、うまく利用して家の個性の一つにしてゆくのもリノベーションの醍醐味だ。
さらに、たいてい各個室には窓がついている。だから、間仕切り壁を取って部屋をつなげた時に複数の箇所から陽が入り、風が抜ける。
また、強度が確かめられた認定工法で建てられているから、構造面の不安も少ない。さらに新耐震基準を満たした物件だったため、耐震補強も必要なかった。また、今回のようにメンテナンスがされていれば、屋根や外壁も当面手を入れる必要も無い。
「家族全員に個室を」
誰も疑わなかった旗印の元、日本中に建ち並んだ商品化住宅。
その住宅で生まれ育った世代が、今度は自分たちの好きなように塗り替えてゆく。今回のようなケースは、今後ますます増えてゆくのではないだろうか?

手を入れなかった外観。ハードとしての安心感が、リノベーションを後押ししてくれるかもしれない。
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