column 2012.7.3
 

職人チームがつくる5種のワンルーム

荒川公良(R不動産toolbox)
 

誰からも好かれる部屋でなくてもよい。この部屋だから住みたいと思える空間を目指した、プレファブハウスメーカーの鉄骨を活かしたワンルーム賃貸アパートのリノベーション。

7月8日(日)に行われた内覧会には、たくさんの方がおこしくださいました。ありがとうございました。

既存の壁や、押入を取り払って作り替えられた空間。それぞれの部屋に個性を出すべく、101号室にはランダムに貼られた木の壁が施された。(プロデュース: R不動

有り余るワンルームの形式からの脱却

もとは社宅として賃貸していた鉄骨造10部屋のアパート。
7部屋が空いた状態になり、一般募集をすることになったため、リノベーションを決意したオーナーNさん。

場所は小田急線「和泉多摩川駅」。新宿まで1本、千代田線への接続も良いこの駅の周辺には、あまりに多くのワンルームアパートが建ち並び、完全にあまっている。にもかかわらず、このエリアでは地主に対して無責任な提案が行われ続けた。ワンルームのアパートを建てれば大丈夫。ワンパターンに繰り返された結果、同じような部屋が需要を超えて増え続け、空室だらけの建物ばかりになっている。

このまま表面の仕上げを綺麗にして貸しても住む人はいない。そう確信したNさんはラジオで東京R不動産のことを知り、東京R不動産のリノベーションサービスで、前回の狛江のリノベ ーション事例「あきらめない 1Room賃貸の可能性」をみられ、普通ではない部屋をつくってほしいと問い合わせをしていただいた。

改装前。洗濯機を隠す壁や、低く抑えられた天井が狭さを強調する。キッチンの扉も味気ない。

天井裏に隠された余剰

物件は大手ハウスメーカーが建てたプレファブ鉄骨造である。

現地調査の際に2階の天井裏をのぞいたところ2m近い懐が隠されていた。しかも鉄骨は黒く塗装されていて状態もよい。部屋にどういった特徴を出すか、設計をはじめる前にいつも考えることだが、この天井裏を見て一気に収束した。鉄骨を見せた天井高の高いワンルーム。2階の天井を剥がせば高さ4m以上の大空間になる。この高さは圧迫感を軽減した広がりのある空間を生む。それだけで他にないワンルームになることを確信し、リノベーションの方向性を固めた。

天井裏に隠されたいた鉄骨の小屋組。これをむき出しにすることで、天井を高くする。

1階と2階でつくりを変える

アパートの1階に4部屋、2階に3部屋の空きがある。まず2階は、屋根型の天井裏を見せることで大空間をつくる。2階は採光もよく、明るさが確保できる上、セキュリティ面では1階よりも有利である。そこで、部屋のつくりはなるべくシンプルにした上で、水回りを作り替えて、バス・トイレを分けることにした。2階の部屋はとにかく天井の高さが魅力である。誰もが気持ちよいと思える部屋を目指した。

黒の鉄骨をアクセントにシンプルにまとめられた2階。風呂やトイレが入った「箱」は特殊塗装によって仕上げられている。

1階と2階で間取りを変えている。どちらも水回りをなるべくコンパクトに納め、自由に使える空間が大きくなるようなプラン。

ここにしかない部屋を職人技で作り上げる

一方、1階は一般的には敬遠されがちである。しかし、家具が充実して、内装も他にはない空間に仕上がっていたらどうだろうか。

家具を買うコストは抑えられるし、自分だけのこだわりの部屋に住むことが出来る。スペックよりも、その部屋に住むことの楽しさや気持ちよさを優先させたい。1階の4部屋はそんなことをイメージして4種類の異なるテーマの部屋とした。

もともとある3点ユニットバスは見方を変えると1箇所にコンパクトに風呂とトイレが集約しており、その分自由に使える空間も広くなる。ユニットバスをそのまま残す代わりに、大容量の下足棚や本棚を配置。キッチンの収納も充実させ、洋服を掛けるパイプも通常の3倍用意する。洗濯機の上には洗剤を置く棚があり、上着をちょっと掛けておける金網もある。実際の生活をイメージしたときに出てくる「ここにこれがあったら」という嬉しい仕掛けを随所に散りばめた。

これらひとつひとつをアイディアとセンスで実現するのはtoolboxの職人チームである。一部屋一部屋を彼らが手作りで作り上げることで、空間は楽しい表情を纏いはじめる。

106号室のインテリア。カラフルなキッチンのタイルと扉は1枚1枚違う物が貼られている。棚板の木口は古材や色のついた木がランダム貼り。

オリジナルでつくられた鉄のラックが印象的な102号室。天井の鉄骨と呼応するように黒が空間を引き締める。

宙に浮いた棚が設けられた103号室。チークとラワンの棚板が柔らかい空間を作っている。

既存の押入の壁は取り払われオープンなクローゼットに(写真左)。上下に服を掛けルコトも出来るし、下はデスクやベッドを置くスペースにも出来る。写真は101号室。

ワンルームにも個性を

作り手の都合を考えれば、同じ部屋を一度にたくさんつくる方が効率がよい。同じ部材を使い回して、同じ工程でつくればよい。

そうやって作り手目線のみでつくられてきた結果が、同じ間取りで同じ仕上げ、同じ仕様のワンルームたちである。

一方、手間と時間をかければ、個性的な空間は出来上がるだろうが、コストは掛けた時間と工賃の分だけ高くなる。

今回のプロジェクトで目指したたことは、効率化と個性づくりの両立である。一方だけを重視するのではなく、繰り返し使うことができるオリジナルの素材やアイディアは再び採用しつつも、物件により異なる状況に合わせて、都度、新たな要素を散りばめていく。繰り返すことで工程は改善され、作業の効率は上がっていく。効率が上がれば余力が生まれ、その余力から物件ならで はのオリジナリティを生み出すことができる。

R不動産リノベーションサービスのコンサルティング、ディレクションの元、職人全員で知恵を出し合い、つくりあげるtoolbox職人チームだからこそ出来る、効率化と自由度の高い モノづくりを目指したい。


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