2010.11.1

 

第14話 浅草地下世界との遭遇

松尾尚司(東京R不動産)
 

浅草を探索するR不動産のチームによるコラム、リレー形式でお送りしています。今回は松尾尚司が担当です。

私が浅草を認識する時、どうしても無視出来ない景色が在る。一般的に浅草と云えば雷門正面方向から浅草寺に向かうイメージが強いのだがその逆。

江戸通りを荒川区方向から浅草駅に向かって東武線高架越しに1931年(昭和6年)築の「松屋浅草店」が見えて来た時に気持ちが一気に高揚する。

昭和初期を代表するアール・デコ調の建造物。現在は外装材で覆われているが先述のルートから近づくと北面に当時の建築そのままが確認出来るのである。

煙突形の塔屋が印象的なその姿は正に「鉄とコンクリート」と云った面持ちで浅草に居ながら何処か無国籍なイメージが付き纏う重厚な建築。その建物の中に、幾分ポップなカラーリングをした東武鉄道がガタゴト派手に音を立てながら吸い込まれて行く姿を見れば、浅草の栄枯盛衰も相まって逆に近未来都市を妄想してしまうのだ。隅田川方面にスカイツリーを拝しつつ外国人受けの良いこの地を印象付ける新旧のごった煮状態が今の浅草の魅力なのである。

その松屋浅草店の足元に更に奥深い地下世界が在る事を皆様はご存知だろうか。
観光客はいわずもがなローカルでさえ雨の日にしか使わない程、独特のにおいを持ったその地下街は映画『ブレードランナー』的世界観。2019年のLAを彷彿とさせる濃度である。

階段を降りた途端に「二つでじゅうぶんですよぉー わかってくださいよぉー」と映画冒頭シーンのガヤガヤとした音が聞えて来るかと思う程の無国籍感を秘めている。占い・タイ料理屋・整体院に怪しいDVD店と其々強烈ではあるが人間の欲望のままに伸びる地下街の最深部に今回お伺いした【フウライ堂】さん【5HOURS RECORD】さんが在る。

明らかに他のお店とは一線を画した其々のスタイルに共感を覚えつつ少し緊張気味にお伺いすると、尊敬すべき自転車アパレルメーカーの社長さんに偶然ばったり。「おー何してんの」と声を掛けて頂き人気の少ない地下の軒先で男二人が盛り上がる不思議な光景。どうやらこの場所は世代は関係無く感覚で繋がるネットワークが構築されているようです。

【フウライ堂】さん【5HOURS RECORD】さんはもともと地元浅草出身の先輩後輩関係だったのだが、お互いにショップを始めて今こうしてつながっているのは、分野は違えど共通の感覚で遊びを深く進めて行った結果だろう。本気の遊び感覚に尊敬を覚えます。

【フウライ堂】さんはグラフィックも鮮やかにそしてユーモラスな作品達、バック、自転車・スケートボードのパーツも並ぶショップギャラリー兼アトリエ。

【5HOURS RECORD】さんはオーナーのお一人が「今、台北のDJイベントから帰った」と息を切らして登場。台北の音楽・自転車・食事情の情報交換を手早く済ませイソイソ開店準備に。

DJであるオーナー自らでセレクトするMIX CD中心のショップ。「どうしてこの人通りも疎らな地下街に?」の質問に対しては皆さん「一般的な浅草のイメージをひっくり返せる強度があるでしょ。これからこれから」とのかっこいい回答。其々のスタイル共相まって深く納得する次第。

ご挨拶もそこそこにショップを拝見していると通称:先生(お向かいの整体・マッサージの先生)が「すまんが手伝ってくれ」とゆったり登場。地下街の天井を這っている吸気口の清掃を行って蓋をビス留めしたいとの事。皆さんに従って何故かお手伝いをする事に。その後先生からアイスコーヒーをご馳走になりながら地下街雑感をお聞きする。地下街運営自体をDIY的に捉え独自の町屋感覚で繋がっている事が密な地下街ネットワークを形成しているのだと体感する次第。「浅草以外考えたこと無い」との言葉に地縁を重んじビジネスのスタイルを軽く飛び越えて行く浅草気風を感じる。世代を超えて軽口を言い合いながらも深いコミュニケーションが発生する独自のスラング感覚は浅草語と云えるのではないか。その様に仮定するに至ったのです。

松屋百貨店から地下世界に下りた小一時間にこれだけの浅草アハ体験。懐深いこの場所で、全くこの先どの様な事が起こるのか想像もつかない期待感が我々を浅草に駆り立てるのである。ちなみにこの日の一番の収穫は【フウライ堂】さん【5HOURS RECORD】さんのお隣に空き物件をご紹介頂いた事。「どの様なお店に来て頂きたいですか」との質問に、皆さん口を揃えて「かわいい女子が集まるカフェ限定で!」浅草玄人集団のかわいいの定義もあいまいに我こそは自信の在るカフェオーナーは浅草地下世界へ急げ。しかし個人的にこの場所、あえて純喫茶で挑む猛者がいても面白いと感じている次第です。

このブログについて
 

浅草エリアの時代がやってくるのではないか?!それが私たちの仮説です。日本橋エリアを見つけた時の感覚と同じものを、東京のさらに東側の浅草エリアに感じました。昭和の懐かしさと近未来が混在したシュールな風景がおもしろいこの街で、物件を探し始めます。

浅草を探索する理由とは?
馬場正尊による関連コラム
「気になっている浅草エリアを、自転車ツアーで探索してみる。」


著者紹介
 

三箇山、松尾、伊藤、黒田(山形R 不動産リミテッド)
東京R 不動産の東チームとして日本橋エリアの物件を開拓するメンバーと、1 ヵ月の限定の特別参加の山形R 不動産リミテッドからの学生インターン。

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