column 2010.10.26
 

東京のヒガシでお茶をいっぷく

武藤ふき子(東京R不動産/Antenna inc.)
 

今年7月、東京のヒガシエリアに、またまた新しいお店がオープンした。今度は、和菓子と日本茶のカフェ!

取材させていただいた飯田佳昭さん。

物件との出会い、人との出会い

3年前にオフィスを東神田に移転させた飯田佳昭さん(株式会社GENTEN)。あるとき、知人がお店を開きたいということで飯田さんのもとに相談に来た。肌で感じてきたヒガシエリアの面白さを話し、知人の物件探しを手伝うかたちで、このエリアの物件をいくつか見て回った。その中に、のちに飯田さんご自身が「回季」をオープンすることになる、この「大原ビル」があった。

「そのときはまだ自分がお店をやることになるとは思っていなかったけど、自分だったらここだなと、やり方によっては面白いことができると直感しました。まず、建物自体面白いですよね。10年20年ではつくれない歴史と雰囲気があった」

昭和5年築。かつてはこんなビルだった。内見時はスケルトン状態。

そもそも、飯田さんが経営する会社の主な事業は、法人向けのケーブルテレビのシステム・ネットワークの構築。なぜ日本茶カフェをやることになったのか?

昨年、社内みんなでアイディアを出して新規事業を立ち上げようという取り組みをしたところ、最後に残ったのが日本茶でビジネス展開していこうという案だった。そのプロジェクトを進めていくなかで出会ったのが、静岡にある茶農園「向島園」の若き園主、向島和詞さん。飯田さんが日本茶カフェをやろうと決めたのは、この園主との出会いが大きかったという。

先代園主が完全有機栽培無農薬・無化学肥料による茶葉作りに取り組んだが、志なかばで他界されてしまったため、当時まだ18歳だった現園主が何も教えられることもないまま後を継ぐことになってしまった。とてつもない手間がかかるという有機栽培の茶葉づくり、最初は売り物にできる茶葉をつくることができず、軌道に乗るまでの数年間は試行錯誤の繰り返しで並々ならぬ苦労があったらしい。

「当初考えていたビジネスモデルは、車での移動販売や駅構内でのスタンドといった気軽なスタイルだったんです。でも、園主の話を聞いているうちに、持って行った企画書を出せなくなってしまった。やるんだったらこのお茶しかない、じっくり味わってもらうカフェスタイルしかないだろうと」

ランチの時間帯は女性客で賑わう。

若い園主が精魂込めてつくるお茶に惚れ込み、カフェをやろうと決心した飯田さん。どこにお店を開こうかと考えたときに、まっさきに頭に浮かんだのは、知人のために物件探しをしたときに見たこの「大原ビル」だったという。

「まず物件ありきだった。当時はまだコンクリート剥き出しのスケルトン状態だったけど、この空間で"和の試み"をやるには面白いんじゃないかとピンときたんです。この物件の歴史や雰囲気を活かしながら、新しいものと融合させてみたいなと」

そうして、この日本茶をテーマにしたカフェ「回季」が2010年7月にオープンした。

※ちなみにこのビル、以前コラムで紹介したヘアサロン「barba」が入っているビルです。
barba

茶をいっぷく所望す

そんなわけで、さっそくお茶と和菓子のセットをいただいた。私がオーダーしたのは「和み(有機深蒸煎茶)」。数年前までオシャレスポットなんて何ひとつなかったこのエリアに、かつてはおどろおどろしいほどのインパクトを与える、廃墟のようだったこのビルに、こんな素敵なカフェができるなんて。にわかには信じられない。実に感慨深い......と思いつつお茶をすする。う〜ん、お茶の旨みもひとしお味わい深い。

飲み終えると、二煎目をいれてくれる。同じ茶葉を使うが、一煎目とはまた違う味が楽しめる。温かいお茶が喉を通っておなかに染み渡っていくのを感じると、なんともホッとする。こういうとき、日本人でよかった、なんて思う。

お茶と一緒に出してくれる和菓子もまたかわいらしい。数種類の中から好きなものを選べるのだけど、どれも魅力的で迷ってしまう。写真は夏にいただいた時のもので、涼やかな団扇の形をしている。二十四節季(約2週間ごと)にあわせてメニューが変わるので、甘党諸君、何度行っても楽しめるぞ。ウシシ。

ディスプレイにはいろんな種類のお茶葉が並ぶ。/特等席はカウンター。お茶をいれるところがよく見えます。

ランチも充実、有機野菜と雑穀ごはんを中心にしたメニューは、週に2回変更される。このエリア、サラリーマン向けの飲食店は多いけれど、こういった体にやさしいバランスのとれた食事を出してくれるお店はまだまだ少ないので、個人的にも嬉しい。ランチの時間帯は近隣で働く女性たちで賑わっている。

空間はというと、コンクリート剥き出しのままになっている天井と床は、かつての名残り。一段高くなっている奥の床やカウンター、テーブル、椅子などが、温かみのある木で誂えてあって、ホッと落ち着く。席と席がほどよく離れているので、ゆったりリラックスして過ごせるのもポイント。お一人様でも居心地がいい。

おすすめなのは、カウンター席。目の前に茶釜がドンと置いてあるだけでもワクワクするが、茶釜から柄杓でお湯を汲み、一人前用の小さな急須でお茶をいれてくれるところをすぐそばで見ることができるので、オーダーしてからの待ち時間も楽しい。カウンターには、微妙に形が違う小さな急須が仲良く並んでいる。お茶の種類によってそれぞれ使い分けるそうだ。

また、「単なるカフェではなく、作り手の思いを伝える場所でもありたい」という気持ちから、店内のスペースを使って陶器やガラス、織物の作品などの展示や企画展のほか、美味しいお茶のいれ方や和菓子づくり、書のワークショップなども行っている。

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