2010.8.17 |
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毎日が合宿気分なイエオフィス
27人所帯のウェブ制作会社は、毎日が、みんなで合宿しに来て集中作業している感じなんです。昼食も自分たちで作ったり、頻繁に席替えしたり。
これ。ここがオフィスの入り口なんですよ。ここへ毎日通うことをイメージしてみてください。
代々木駅から徒歩約10分。住宅街のなかに今回ご紹介する株式会社モノサスのオフィスはある。
まず目に飛び込んでくるのは水平に広がる蔦の緑だ。2階部分を水平に覆っている。まるで緑が建物の屋根のよう。そして正面中央に奥へと繋がる通路が。ぼんやり明るく中庭が見える。奥の木の扉が今回の目的地だ。
株式会社モノサスは、ウェブ制作会社。スタッフは25人。徹底したヒアリングを元にしたウェブコンサルティングと、質と量にこだわるhtmlコーディングが得意な会社だ。
まずは立地について。駅からの距離はそんなに気にならない。「10分こえなければ大丈夫と思っている。新宿線にも出られるし。交通の便はそれほど悪くない」
「あと代々木って、意外に山手線のなかでも独特のコミュニティー感というか、ローカリズムがある。飲食店を見るとわかるけど、チェーン店が少ない」と林さん。
1階。入居後、改装などはまったくせずにこの空間。ちなみに広さは上下あわせて167平米あります。
この物件に出会うまで、2年探し続けたという。物件ありきで、エリアには全くこだわってなかった。
重視していたのは2点。ひとつは「空間」だ。
「上手くいえないけど、雰囲気ですね。個性的な空間ならば、多少広くても狭くても、自分たちがあわせて使えばいいと思ったんです」
2階。窓からはモッサモサの緑。毎日が林間学校気分。
(左)こんなパッセージを抜けていった先に、モノサスのオフィスはあります。 (右)庭。仕事で疲れたら、ここでひたすらぼーっと。
もうひとつは「キッチンとバーカウンターが欲しい」ということだった。
なぜキッチンとバーカウンターですか?
「家のようなオフィスが作りたい」と林さん。その発想の元は、林さんがかつて過ごした2つの場所にあった。
「ひとつは大学時代の部室。体育会系で厳しい部だったけど、部室の居心地がとてもよかったんです。もうひとつは、起業する前のサラリーマン時代のオフィス。ほとんど休まず会社で過ごしてたんですが、徹夜が楽しかった。夜中にオフィスで歌ったりして。先輩にも恵まれて。ワイワイ過ごしてました」
どちらも仲間と長く一緒に時間を過ごした場所。家にいるような居心地の良さを感じたという。
「だからオフィスにも生活があって良いと思った。部室のような、家のようなオフィス。そのほうが楽しいし、結果として良い仕事もできるはず」
では、家のようなオフィスを作るためには、何が必要か。
大型案件が終わったら昼から呑んじゃう! それができるのもここならでは。
(左)オフィスにでかいキッチンがあるのは珍しいですよね。今日の自炊部の献立は... (右)1階の打ち合わせスペース。完全に家です、ここ。
実際、キッチンは大活躍だという。
まず日常的には、スタッフ有志で結成されている「自炊部」によって、キッチンは常時活用されている。
「5〜6人が手を挙げてその日の昼食のメニューを決めて、買い出しに行って、自分たちの分を作って食べていますね。台湾出身のスタッフがいるのでたまに台湾料理になったりとか。週3〜4回はやってて、これは続いてますね」
そしてパーティーだ。「引っ越し直後のオープニングパーティーはもちろん、その後も社内の新年会や忘年会、セミナーのあとの懇親会など、今まで月1回くらいのペースで何かしらパーティーを開催してきました。多いときは80人くらい来てもらったことも」
「パーティーの準備は、みんなで築地に買い出しにいって自分たちで料理することが多いです。魚を20キロとか買ってきて、自分たちでさばく。みんな見よう見まねで覚えていきますよ。イカのさばき方とか。生まれて初めてでも、調べながらやれば、なんとかなるもんです(笑)」
「あとは、会社で飲み会すると、安くなるのもメリット。スタッフ20人ともなると、外のお店に行ったら、普通に8万とか払いますからね。だったら、会社でやって、払うはずだったお金を賞金にして何かゲームでもしたほうがよっぽど盛り上がる」
で、これが外観! 緑緑緑緑。
東京R不動産では「え!昭和26年?!」というタイトルで募集した当物件。終戦直後の昭和26年、米軍将校向けの貸家として建てられた。その後、オーナーさんのご主人が建築設計のアトリエとして使うために大幅に改装。そして数年前、オーナーさんが東京を離れることになり、貸し出されることになった。
現在、敷地中央の中庭を囲むように、2階建ての物件が5つ連続している。
「非常に希少な物件でした」とは、この物件の仲介を担当した東京R不動産タナカの言葉。「毎日毎日物件を探し回っているR不動産のスタッフでも、誰もこの物件のことを知らなかったんです。初めて見たときには興奮しましたね。まだまだ都内には埋もれたアツい物件があるぞ! と」
そして契約、入居。オフィスとして使い始めるには苦労したという。
一般的に、戸建をオフィスとして使う場合、問題になるのは2点。インフラが弱いことが多いのと、部屋が小分けになりがちなことだ。
「仕事上必須なインターネットが敷かれてませんでした。電源はアンペア数は足りていましたが、配分が偏っていて。あと、うちは特に電話の使用台数が多いので設置のために、あちこち見積り取ったりして手間がかかりました」
レイアウトも苦労した。「なかなか決まらなくて。例えば、1階のこの柱。これらをよけつつ、いかに20人分のスタッフの机をうまく配置するか。机のサイズを決めたり、あれこれ検討しました」
「最終的には、現場合わせでソファーの位置を決めたら、他の要素の配置もうまく収まりました。2階は3部屋あって、確かにスペースが小分けですが、集中して作業するスペース、打ち合わせのスペースなど、みんなで集まる1階と対照的に使い分けています」
(左上)玄関の木の扉。この年季の入りよう。(右上)ドリームカーテンプロジェクト。(左下)真夏でもひんやりの中庭。(右下)こちらが社長、林さんです。
でも苦労は最初だけだったと林さん。「自分の性格なのかもしれませんが、最初にしっかり考えれば後は悩まない。あとはスタッフが自由に考えて使ってくれれば良い」
ひとつの例が天窓のカーテンだ。玄関入ってすぐの応接間と、奥の作業スペースにあるガラスの天窓に、今年スタッフがカーテンをかけた。「この場所、夏は暑くてまぶしくて、冬は寒いのですが、入居して2年目の夏となる今年、スタッフが自発的に、布を買ってきてカーテンをかけたんです。"ドリームカーテンプロジェクト"と名付けて、ワイワイ楽しそうにやってましたね。おかげで、だいぶ過ごしやすくなりました」
家のようなオフィス、気をつけていることはありますか?
「時間にはこだわります。毎朝、10時きっかりにスタートで7〜8分、朝礼をやります。勤務時間は19時までで、フレックスとか自宅作業は原則として認めません」
居心地の良いオフィスに甘えてしまわないための工夫だという。
「あとは楽しさを演出しすぎないことでしょうか。例えばゲーム機は置かないとかね。せいぜいダーツぐらい」
最低限の規律の上に成り立つ、居心地の良い空間。仕事と生活の境界が薄れていった先の、きわめて自然なバランス。
個人的には2階の林間学校のような雰囲気が大ハマりでした。今度、1人分、間借りさせてもらえませんか〜?
モノサス