2009.9.29 |
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写真家池田晶紀さんのスタジオ「ゆかい」
今回レポートするのは、東京R不動産がスタートした初期の頃から「昭和雑居スタイル」というタイトルでたびたび紹介しているオフィス物件です。
昭和の雰囲気たっぷりの共用部。
場所は代々木駅のすぐそば。路地に少し入ったところにこの建物は佇んでいます。昭和39年生まれの古い建物で、一歩中に入るとタイムスリップしたかのように感じるほど、昭和の空気が色濃く残っています。
お邪魔させていただいたのは、このビルの一室に入居してくださっている写真家池田晶紀さんの事務所兼スタジオ「ゆかい」。2006年、このビルに入居したのと同時期に個人スタジオ「ゆかい」を設立。雑誌やファッションカタログ、広告・音楽などの幅広い分野で活躍するほか、ポートレート・シリーズ「休日の写真館」を手掛けて国内外で展覧会を開くなど、現在活躍中の写真家さんです。
休日の写真館
ミーティングスペース兼撮影スペース。壁には池田さんの作品が。
個人的に池田さんにはじめて会ったのは、確か2002年頃。当時、国立で池田さんが仲間と運営していた「ドラックアウトスタジオ」という非営利ギャラリーにお邪魔させてもらった時でした。もともと店舗だった建物をギャラリー兼住居として使用、池田さん自身、そこでアーティストとして作品を制作していました。
その後、国立から三軒茶屋に引っ越し、自宅を住居兼アトリエ&事務所として使っていたそうですが、「生活と制作の場の境目がないことに対するストレスを感じ始めた」ということ、また「アーティストとして、立体作品の制作から写真に移行して、それほど大きなアトリエスペースは必要なくなった」ということもあり、住居とは別に事務所物件を探し始めたのだとか。
「ゆかい」という名前の通り、池田さん本人もとても気さくで愉快なお人柄なのですが、室内もなにやら愉快な空気が充満してます。
探していた物件の条件は、何よりもまず立地重視。写真家という仕事柄、ほとんど毎日外出するので、フットワークのいい場所であることが第一だったそうです。そして見つけたのが、代々木駅から徒歩1分という好立地のこの物件でした。
「代々木はすごくいい! アクセスは便利だし、飲食店も多いから食べることには困らないし、少し路地に入れば意外と静かだし。古くて怪しげな、でもすごくかっこいい建物が残っていたり、無愛想な中国人夫婦が営んでいる古書店があったり、ユニークなカメラ屋と仲良くなったり。アニメの専門学校もあるでしょ? 楽しそうだから、思わず体験入学しちゃったもの、声優コースに(笑) とにかく面白い街で、街自体すごく気に入ってます」
と言う池田さん、すっかり代々木が気に入ってしまったらしく、最近、住居もこれまで住んでいた三軒茶屋から事務所の近くに引っ越したのだとか。
奥の事務所スペースはこんな感じ。普段はスタッフ含め6人で使っているそうです。
ギターや雑貨、絵、手作りの小物なんかが置かれていて、なんだか楽しげ。
無印良品のファイルボックスにかわいいイラストが。漫画の背表紙のように絵が繋がっています。
何しろ初めてスタジオ兼事務所を持つ池田さん、物件を探すにあたって、もうひとつ条件にしていたのは、手頃な家賃であることでした。
この物件、すごく立地がいい割には家賃が安いんです。その理由は、各部屋はコンパクトサイズでキッチンもトイレもなく、エレベーターもない、ということ。さらに、共用トイレは和式で、改装OKではないからきれいにリフォームできるわけでもない。ないないづくしのこの物件は、一般的にはウケがよくないかもしれませんが......実際入居してみて、どうですか?
「エレベーターがないから、機材を運ぶのが大変なんですよ! カメラの機材って、笑っちゃうくらい重いんです。毎日が引っ越しみたいな感じですもん」
カメラの機材たち。確かにこれを毎日運ぶのは大変そう。(ちなみに、スタジオ「ゆかい」が入居されているのは4階です)
「あと、夜の12時を過ぎると共用部の電気が消えるんですよ。セキュリティ対策のためらしいんですけど。ここはトイレが共用部にしかないから、夜トイレに行くのが怖い! でも、人間ってすごいですね。慣れると真っ暗な中でもスタスタ歩けるし、階段も平気で駆け下りれるようになる(笑)」
共用トイレ。足拭きマットが「いらっしゃいませ」なのがちょっと可笑しい。
「でも、いろんな人が来ますよ。仕事の用件だけじゃなくて、この近くで飲んだ帰りにふらりと来る人もいます。みんな"部室"みたいに思っているんですよ、ここを。部屋にはキッチンはなくて、あるのは小さな洗面台だけだけど、それでもみんなで鍋をやったりしますね。共用トイレの床に少し大きめの洗い場があって、そこで鍋を洗ったりするんです。徹夜作業でお風呂に入れなかった時は、エントランスのところにある屋外の水道で頭洗ったりできますし(笑)」
お話を聞いていると、物件のありのままを自然体で受け入れているというか、むしろ、なんだか不便さも含めて楽しんでいるように思えてきます。
「建物が持っている雰囲気も気に入ってますよ。このオシャレじゃない感じとか(笑)」と言う池田さん。空間を改装してカッコよくすることよりも、"自分がやりたいこと、面白いことを、この空間でどこまでできるか"ということに関心があるようで……
いわゆる撮影スタジオのように広いスペースではないけれど、ここでポートレートの撮影も行っています。
「ここでやれることは結構やってみたんです。記念写真のポートレートとか、この「漫画少年ドヴァイ展」のポスターもここで撮影したものです(上の写真)。でも、面白いことをやろうとしても、ここでできることの限界内ででしかできない、っていうことは感じていて。やりたいことをやる環境を整えるには、お金がかかるじゃないですか。偉くなってお金持ちになってから、やりたいことを自由にやるっていう考え方もあるけど、僕はゆっくりでもいいから少しずつ環境を整えていくやり方かなと。いろいろやってみたいことがあるし、アイデアもどんどん出てきているので、そろそろ次のステージに行きたいと考えているところです」
「今、物件探しているんですよー。やっぱり代々木がいいですね」と池田さん。
国立のドラックアウトスタジオから始まり、場所を変えながら活動の場を広げて来た池田さん。R不動産が紹介した物件を経て、またさらに大きく飛躍していくなんて嬉しい限りです。今後の活躍がますます楽しみです!