column 2010.6.8
 

蔦の家 - 20年間空き家だった一戸建てが6ヶ月で賃料を生む物件に

田中慶樹(東京R不動産)
 

モジャモジャの蔦に覆われていた古家。R不動産のリノベーション・サービスにお問合せをいただき、改装から賃貸入居者募集、そして成約まで一貫してR不動産で行ったプロジェクトのプロセスを紹介。

経緯

元はオーナーKさんの親族の住む家だった。空き家状態のまま、気がつけば20年。築42年の木造一戸建て。誰が植えたわけでもないのに、いつからか外壁はツタで覆われ、敷地内には立派なシュロが生えていた。

改装前、近隣からはお化け屋敷と呼ばれていた/改装後

このまま空き家という訳にもいかない。とはいえKさんは既に持ち家もあり、自身が住むという選択肢もない。取り壊して土地ごと売却してしまう、駐車場をつくる、アパートを建てる......考えうる選択肢のなかから、Kさんが選んだのは「改装して人に貸す」というものだった。
手っ取り早さでいえば売却だったのかもしれない。だが不動産不況の今、売却は不利。建て直すほど予算はかけられない。改装なら可能なのではないか、そう考えたという。
その頃、普段から見ていた東京R不動産で、改装についての相談を受け付けていることを知る。「蔦の家」再生プロジェクトが始まった。

ヒアリングと現地調査

まずはKさんへのヒアリングだ。Kさんからは「小さな個人オフィスとして賃貸に出せないか?」という打診があった。

次に行ったのは現地調査だ。建物の立地、建物の状況を正確に把握しなければならない。
立地は良かった。場所はJRの主要駅から徒歩5分の閑静な住宅街だ。ただし用途地域上、オフィスとして貸せないことが判明した。
建物の状況は大きく3つの問題があった。耐震壁が不足していること、ひとつひとつの部屋が小さいこと、そして内部が暗いことだ。
一方で好材料もあった。柱・梁の素材の質や状態が良く、窓が多かった。また雨漏りが見られなかったことも良かった。

R不動産の提案

現地調査を元にR不動産がおこなった提案は次の4つにまとめられる。

1)想定賃料の割り出し
R不動産の営業スタッフは日々物件を仲介している経験の蓄積がある。立地と建物の特徴から、改装後の想定賃料を割り出した。

2)回収できる範囲での改装費用の算出
想定賃料を元に出すのが「回収年数を見据えた改装費用」。改装によって借りてもらえる魅力ある物件にしなければならないのはもちろんだが、改装費用を回収可能な範囲に抑えなければ成立しない。

3)物件の特徴を生かす改装提案
改装のポイントは大きく2点。「蔦を残すこと」「住居兼事務所としても使えるようにすること」だ。
蔦を残すのは、家の形をした蔦のかたまりが醸し出す魅力を活かしたかったからだ。一見ネガティブな要素を残しても、むしろそれを魅力として感じる借り手がいるという確信があった。同時に、外壁をいじらないことで改装費を抑えることにもつながった。
住居兼事務所としても使えるようにすることは、小さなオフィスとして貸したいというKさんの要望への解だ。確かに立地からはオフィスとして使いたいというニーズが出てくることは十分に予想された。しかし現地調査の段階でオフィスとして貸すことはできない立地であることは判明していた。そこで住居兼事務所として貸すことを提案。1階が仕事場、2階が住居という使い方もできるプランとした。

4)工費の最適化
最後におこなったのは、予算と改装費との擦り合わせだ。改装により果たす目的を見極めながら一つ一つの要素や工費のグレードを調整して改装費を最適化する。これにより予算内での改装が現実的なものになる。

工事のプロセス

住居兼事務所として使う想定のため、玄関の位置を道路面に変更。

改装前/改装後

床と壁を真っ白に塗り込むことで室内が明るくなった。また筋交いを入れて必要な耐震補強を行った。

工事中/改装後

耐震性を確保しつつ不要な壁を抜くことで開放的なプランになった。

改装前(黒い太線が壁)/改装後、広々としたプランに。

階段の壁を抜き、1階と2階の間の視線と光の通りを良くする。

工事中/改装後

2階は天井を抜き、天井高を大きく確保した。

改装前/改装後

磨りガラスを透明ガラスに入れ替えた。残した蔦がよく見える。

工事中/改装後

結果

着工から1ヶ月半で改装工事は完了した。

1階の様子/2階の様子

東京R不動産の本やサイトを見て価値感は共有できていると思っていたというKさん。デザインや仕上がりについては、心配していなかったというが、できあがって実際に見てみると「昼でも真っ暗だったこの建物がここまで明るく開放的になるのかと。驚き、そして満足しました」

その後、東京R不動産で募集をかける。多数のお問い合わせを受け、入居者は早々に決まった。

賃料はほぼ当初の想定どおり。築古物件でありながら、周辺の同規模でより新しい物件の賃料に劣らない金額。

この時点で、Kさんが東京R不動産に問い合わせてから約6ヶ月が経っていた。20年間空き家だった建物が、賃料収入を生み出す物件に変わった瞬間だ。

「長年の胸のつっかえがようやくとれた思い。蔦を残したことはあらためて正解だと思った」とKさん。

世の中にはまだまだ使われていない空き物件がある。古いからといって諦めないでほしい。きっとそれぞれに活かすべき特徴があって、うまく再生することでその建物を借りたいと思う人が出てくるはずだ。

R不動産に物件再生の相談をご希望の方は、下のリンク先からご連絡ください。

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