column 2010.5.25
 

山形R不動産のススメ

三箇山 泰(東京R不動産)
 

東北芸術工科大学との実験的な試み、山形R不動産。空きビルだらけの中心市街地で、学生たちが中心になって手がけたリノベーション物件が、竣工直後から満室稼動中! 地方都市の学生ならではのプロデュースの仕組みをご紹介。

盆地な山形市。

地方都市とR不動産

「山形R不動産」ってご存知ですか? 僕は、正直よく分かっていなかったんです。

いや、もちろん身内の人間が関わっているのでいろいろと話を聞くし、山形R不動産のサイトを眺めもするのですが、結局、東北芸術工科大学(以下、芸工大)の学生が授業の一環として街の空きビルに提案を加えて紹介しているサイト、という程度の理解しかありませんでした。

ただね。今回たまたま山形に行く機会があったので、いろいろと山形R不動産の人に話を聞いてきたんです。そしたら、いわゆる地方都市の抱える問題と同時に、とても面白いR不動産と地方の関わり方の可能性を聞くことができたような気がして。自分だけに留めておくのはなんなので。ちょっとだけご紹介します。

なんかこういう街でした。

まずは山形市のご紹介。当然というか、山形県の県庁所在地です。人口は、254,636人(2010年4月1日現在)。全国市区町村ランキングの104位です。東京だと墨田区や豊島区と同じぐらいの人口。30歳代の人口が全国平均より1割ぐらい低く、70歳代以降の人口が全国平均より1割ぐらい高い、いわゆる地方都市です。ちなみに市内にある大学は4つ。山形大学、山形県立保健医療大学、放送大学山形学習センター、そして先述した芸工大というわけです。

本当に歴史ある街です。

緑もたくさんあります。

人口が20万人~30万人までの市区町村は44個あります。東京・大阪の市区がそのうち11個あるので、残りは33個(他にも除こうよ、という話は置いといて)。すごく乱暴な言い方をすると、このくらいの数の地方都市が同じような状況にあると仮定して話を進めていくと面白いかなと。

さて。そんな山形市が現在どういう状況にあるかというと。山形R不動産の最初の方の ブログに詳しくありますが、中心市街のビルが空きだらけです。そりゃあもう空きだらけ。デパートっぽい規模の商業ビルも上階は空いています。表通りの1階部分も空いています。もちろんその上も。4割ぐらいのビルが空いているイメージです。平日に行ったので、その影響もあるかもしれませんが出歩いている人も少ないです。市街地に来た感じがまるでしない、なんか普通の街です。
でも、歴史ある街なので、例えば蔵があったり、面白い戸建があったり。花町があったり、川が流れていてその川沿いにいい感じの建物があったり。中心市街だ、というイメージを除くととても居心地が良さそうな、そんな街です。

で、山形R不動産。この街で3棟のリノベーションに関わっています(そのうち2棟はシェアハウスとして絶賛100%稼動中!)。ほぼ1年で3棟。結構なめたもんじゃない実績なんです。しかも、そのスキームもクオリティもなんか面白いわけで……

山形R不動産最初の実績「ミサワクラス」。

山形R不動産のやり方

まずはスキームの説明です。
簡単に言うと、山形R不動産はプロデューサーです。「簡単に言うと」と書いてしまうと、例え話のように聞こえてしまうかもしれませんが、規模の小さい本当の物件のプロデュース業務を行っています。

物件オーナーを見つけて、その物件の置かれた状況をヒアリングし、企画を立てつつお金周りの概算をまとめ、オーナーの同意を得たら銀行に走り資金調達を手伝い、デザインをして、できる限り自分たちで施工を行いつつ、できない部分は施工業者を使って、その管理を行う。しかも、自分たちで借主も集めちゃう。そして、竣工すぐに満室稼動! 東京で不動産投資をやっている人にとっては、夢みたいな話を実現させているんですね。

というと、なんか宣伝文句みたいに聞こえてくるかもしれませんが、いろいろとからくりがありつつも実際に行われているんですよ。

ゲストハウスっぽく使われた場所。(アジアハウス)

階段の裏側にペイントってあまり見たことない。(アジアハウス)

座席は近くの廃映画館からもらったそうです。(アジアハウス)

1階は憩いのカフェになりました。(アジアハウス) 写真提供:東北芸術工科大学/写真:瀬野広美

では、そのからくりとは何か?

まず、上記の借主ってのは同じ学校の学生です。地方都市で学生時代を過ごした人は分かりやすいと思うのですが、学校って中心市街地からちょっとずれたところにあるのが一般的なんですね。でも、呑んだり遊ぶ場所は市街地が都合がいい。じゃあ、市街地に住めばいいじゃん、と思うのですが財布的なことを考えると、どうしても市街地の賃料は高い。シェアハウスなんて最近都市部で流行りだしたぐらいで、地方都市にはその文化があまり無い。ということで、市街にシェアハウスを作ると、学生的にはとても恵まれた物件に見え、募集がとても楽というわけです。
なので、借主をむしろ着工前に口頭の合意ベースですけど集められちゃうわけなんです。「こんな物件、山形市街でできたら住む?」「住む住む!!」みたいな。

あと、もう1つからくり。
実は地方銀行って、しっかりとお金があるんですね。採算がしっかりとれそうな事業があったら、できれば貸したい。でも、なかなか貸せない。なぜなら、あまり事業とか起こす人がいないから。
なので、借主がほぼ目処が付いている状態で数年で回収できる事業を立案し「お金貸して」という話をすると、担保がしっかりとあれば普通に貸してくれるんです。

言っちゃえば普通のことの集積なのですが、それが山形市には無かったサービスだったので。授業の一環としてやっているにも関わらず、3棟の実績を生み出せたわけです。

さて、そのクオリティ。僕もちょこちょことセルフリノベ的なことをやったくちなので分かるのですが、施工というか実際の工事の部分でクオリティを出すのって結構大変で。
それが、山形R不動産の物件はなかなかしっかりとできているんです。話を聞いていくとなるほど、と思ったのですが、“芸術工科”大学だけあって、いわゆるものづくり系の友達が身の回りにたくさんいて、その力を借りて行っているらしいんですね。
例えば、彼らが手がけた3棟のうちの1棟( アジアハウス)は短期的にギャラリーやシアターとして使った物件なのですが、普通にかっこいい。窓のペイントとか、ロゴとか。もちろんざっくりではあるけれど、それでも細かいところがしっかりとデザインしてあるんです。これも全部友達の仕業。

ということでまとめると、しっかりスキームがあって、デザインされた物件が人に求められるかたちで供給されているということなんです。


「ミサワクラス」に関するブログ記事はこちら
>>ブログ記事一覧

シェアハウスのキッチンの様子。(ミサワクラス)

街が生まれ変わる?

そんなに大風呂敷を広げるつもりもないんです。芸工大や地元の大人がとても協力的だったり、たまたま知り合えたオーナーが理解ある人だったり。いろいろな特殊要件もあるので。
とはいえ、僕なんか東京にいると可能性ある真っ白なキャンバスに憧れるんですよね。この街全部ぶっ壊れちゃえばいいのに的な。もちろん山形市が壊れているわけではないのですが、それでも東京よりずっと自由度があって、それをありがたがってくれる建物とオーナーに出会えて。なんか不動産屋として、とても幸せな気がするんですよ。

こんな感じの建物いっぱい余ってます。

山形R不動産の面々。

今回いろいろな話をしてくれたのが山形R不動産の黒田君という人だったのですが、その黒田君が僕と話している時もひっきりなしに電話がかかってきて、誰? と聞くと「オーナーさんです」とか「不動産屋さんです」とか。なんか一人前の仕事している人みたいに見えてきて。本業学生なのに。変なリスペクトを抱いて帰ってきたわけです。

もちろん福岡R不動産とか金沢R不動産とか、面白い部分がそれぞれあるのですが。これから意外に注目すべきは山形R不動産かもしれませんよ、と思いつつ。
もし機会あったら山形に行ってみてください。黒田君とか自分たちの成果を人に紹介する機会に飢えているので、本当に生き生きと説明してくれて、それだけでも楽しいですよ。もちろんそのときは紹介させていただきますので。


サイトはこちら。
山形R不動産
ミサワクラスのホームページ

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